【幸福道21】天国と地獄

 ウクライナの悲惨な映像を見て、この事が思い出されました。
 21世紀こそ戦争のない平和な地球になりたいと念じ、その幕開け2001年に特別編成の新堀ギターフィルハーモニーオーケストラ大編成で、「世界平和を願うチャリティコンサート」を、日本のみなとみらいホールと米国のカーネギーホールで開催する予定でした。オケのメンバーは約150名。日本国籍の他6ヵ国の国籍を持つ人達による特別編成のオケでした。
 カーネギーホールでの米国公演は2001年11月6日の予定で、それに先立ち、日本公演は同年9月2日に、横浜みなとみらい大ホールにて満員のお客様が集い実施されました。
 スタートは、「バロック風“オールド・ブラック・ジョー”」 (フォスター~早川正昭)を大編成で、続いてヴィヴァルディの「フルート協奏曲 作品10-1“海の嵐”第1・3楽章」、チェンバロギターによる独奏で「リュート組曲第1番 BWV996よりパッサージョとプレスト」、4曲目は、いしづかまさとし作曲~杉原俊範編曲の「NRM・長篠(平和への祈り)」、そして第1部の締めは、アメリカにちなんでエレクトリックギター協奏曲「ゴールド・ラッシュ」(百瀬賢午作曲)。
 休憩後、第2部のトップは、私の作品「NRM18・01“釈迦讃歌”」 。これは4人のトーンチャイム奏者が音を鳴らしながら舞台下手から上手へ移動して行く“移動音響”を入れた作品です。それに続く 「さくら変奏曲」 は、アルトギターのソリスト4名が琴爪を装着して演奏するコンチェルト。次のDANROKU (現在はDANROK)=男性6名のギター群にフルート,アコーディオン,チェロを加えピアソラの 「ミケランジェロ’70」。10曲目はNメソード合奏原点の音、女性四重奏団で 「ビギン・ザ・ビギン~想い出を売る店」。続いてジュリアーニの 「ギター協奏曲イ長調Op.30」を3名のソリストで。そしてシュトラウスの 「こうもり序曲」 でフィナーレを飾るというバラエティに富んだ国際チャリティ色のプログラミングにしました。この時の聴衆のゴーっという地鳴りのような拍手と歓声は忘れられません。
 そしてこの公演は、演奏者のご家族は元より、平和を願う関係各位・音楽業界、ニューヨークの日本総領事館、両国のマスコミなど非常に多くの方から賛同を頂けたものでした。それはまだSNSも盛んではない当時、新堀ギターアンサンブルの欧米公演での成功の実績を知らせる事も含め、奔走してくれたエヌ企画(=演奏会などを取り仕切るNiiboriの企画部)代表の西川満志氏始め日米スタッフの皆さんの尽力によるところが大きいです。日本と米国(ニューヨーク)で13時間の時差があるので連絡を取り合う事にも苦労がありました。
 この日米公演用のプログラムに掲載された私のご挨拶文は次の通りです。


ごあいさつ
 21世紀開幕の記念イヤーに、横浜みなとみらいホールに続き、世界の情報発信基地ニューヨーク(NY)のカーネギーホールから、日本で50年間に亘って育んで来たギターオーケストラによって、平和の虹の架け橋を高らかにうたい上げる事の出来る幸運を与えて頂けました事を、全ての方々に心から深く感謝を申し上げる次第であります。
 150人の選ばれた奏者が、200本を超える楽器を無傷で運び、11時間のフライトの後に心身をベストに整えて、一糸乱れないで最上の演奏をするという事は、何度も国際公演を重ねたノウハウがあるとは言え容易ではありません。これを可能にして来たのは奏者達が優れた音楽家であると同時に“音楽活動を通して世界に平和心の種をまく事への意義、フィロソフィーを常に強く持っていた”からに他なりません。単に平和を願うという事を超えて、自らが手を土して身体を汗して、日々協力し、討議し、街頭でも、田舎の学校でも、病院でも、もちろん大小コンサートホールでも朝な夕なに誠意を込めて演奏し、音楽教室を自分達の手で設置し、チラシ、ポスターも手作りし、受付事務も、機関誌の発行も、楽器開発も、CD・VTRづくりも全てをコツコツとやって来たからに他なりません。50年を経た現在では、高等課程と専門課程を持つ音楽専門学校も有すチームが出来上がりました。数百名から成る音楽家自らが運営し、そして生活が保証されたチームは世界に例がないかも知れません。そして全員が週に数回集まって心を寄せ合いフィルハーモニーオーケストラを奏でるのです。1つ屋根の下で学び合ったサウンドが、今宵の新堀ギターフィルハーモニーオーケストラなのです。
 これからの夢ですが、現在既に7つの国籍の人達が、このオーケストラを支えていますが、更に世界中の人達が加わって、「こんなに“地球は一家”なのです!」と奏でて行きたいと想っています。そしてその温かい強い心のハーモニーが虹の架け橋となって、少し痛んで来た地球が、今よりも一層美しく甦って行く事を切に切に願って止みません。

 以上がプログラムに掲載されました。
 そして2001年9月2日の日本公演で熱い声援を受け、「11月6日はいよいよカーネギーだ!」とメンバーのモチベーションは、更に上がって行きました。
 日本公演後、エヌ企画の西川氏は現地スタッフとの打ち合わせの為に米国に飛び、「9月7日現在で、チケットは85%売れていて順調に進行中」との彼からの報告に、私は安堵すると共に米国公演への夢も広がっていきました。 
 ところが、ところがです!…西川氏が帰国して僅か数日後の9月11日に、歴史に刻まれる恐ろしい事件が起こりました。NYの高層ビル=ワールド・トレードセンタービルに旅客機が激突したのです。西川氏は数日前まで、このビルでも打ち合わせをしていたのです。彼が会っていた笑顔いっぱいだった人々がいたビルは、一瞬で粉塵と化したのです。その映像を見て、彼は全身の震えが止まらなかったと言っていました。そして後にこの事件は、旅客機をハイジャックして誘導ミサイル化した自爆テロであると報道されました。
 カーネギー公演実行委員会(委員長 小山清)はすぐに臨時会議を召集し、公演をどうするか検討をしました。演奏メンバーからは「この様な時だからこそNYに行き、我々の音楽を通して心に深く傷を負った人達に少しでも役に立ちたい」という善意の声が多く上がり、私はチャリティ色を一層強くして、練習を再開しようと思っていました。
 しかし、テロ事件から数日後、数名のメンバーが私を訪ねて来て、次のように述べました。
 「私自身は米国・カーネギーホールで演奏したいのですが家族が反対しています。また自分の生徒さんを危険な場所に同行させるわけにはいきません。そして私は新堀先生にも行って欲しくないのです」と。
 この米国公演の為の特別編成オケのメンバーは、各地で新堀メソードを学んでいる先生や生徒さんも含み、同行する応援ツアーの方達もいました。テロはあの日で終わったという確証はありませんでした。そして、日を追うごとに参加を断念する人が増して行き、私の理想とするプログラムの実現は困難となって行きました。それにNYの人々が安心してコンサート会場に足を運べる状況ではなかったのです。カーネギーホールから世界へ平和のメッセージを送るというコンセプトは行きづまってしまいました。
 それと、未発表であったもう一つの企画も 「今は適切な時期でない」 と私は判断しました。
 公演実行委員会は何度も何度も検討を重ね、上記の理由、「危険であっても演奏を届けたい」という演奏メンバーを守るためにも、涙を飲んで11月6日の米国公演は延期する事を決めました。
 ちなみにもう一つの企画とは、カーネギーホールと国連ビルは近くにあり、公演後直ちに国連ビルに移動し、本会議の直前に“平和を祈るコンサート”を行ない、争っている国の人達が、人類文化平和史6000年の歴史を持つギター、それを7ヵ国の国籍を持つメンバーで編成されたグランドギターオーケストラで“地球は一家”の熱い音を奏で、それに耳を傾けて頂けたらと想い、国連関係者と進めていた企画でした。
 このような企画は、信じあえる人達がボランティア精神で長期に亘って努力を重ねないと実現できません。それこそ人々を幸福へ導く 「幸福道」 だと思います。
 カーネギーホール公演も、国連本会場で演奏しようとした事も、その企画・想いに感動して動いてくれた人達がいてくれたからこそ、実現目前まで到達できた事です。
 しかしこれらの長期に亘った努力も、テロという地獄道の前に、消えたかに見えます。しかし全く消えてしまったとは、今も尚、私は思ってはいません。幸福道づくりは時間をかけ、多くの人々の想い・力が集まっているのです。何事も信頼・協力して、努力を続けてこそ想いが形になるのです。
 予期せぬ天災・戦争により、幸福や夢は一瞬にして破壊される事があります。しかし、そのような状況から人々は何度も明るい未来を描き信じて立ち上がって来ました。例えば、戦後瓦礫の山から、美しい街を取り戻すのには何年もかかります。途中でくじけそうになりながらも、諦めずに過去を教訓として学び、努力をし続けたからこそ、人類は進歩し続けて来られたと言えます。
 あまりの悲惨さに、神は何という試練を与えるのだと叫びたくもなります。
 今、人類は疫病に続き、第三次世界大戦勃発の危機に瀕しているかもしれません。
 過去は変えようのない事実であり、未来は不確かな予想です。過去は成功ばかりでなく失敗もあり、失敗からも多くを学ぶ事ができます。私達は第二次世界大戦から多くを学びました。その教訓を忘れてはなりません。二度と大戦は起こしてはならない。核兵器の使用は言語道断です。
 素晴らしい芸術大国である隣国が、他国に武力侵攻している…なんという事でしょうか。
 神が与えてくれたこの世での時間=「命」 を平和の為に尽くしたい。それが、新堀ギターオーケストラはじめ、私達の願いです。何があろうとこの想いを持ち、行動をし続けたいと思っています。継続はきっと大きな力になると信じています。

新堀ギターオーケストラ 国際チャリティコンサート  日本・米国公演ポスター

新堀ギターオーケストラのカーネギーホール公演2001 米国用のポスター