〔たくと・ぽろん 49〕 「愛サン」のこと

“ドッ、ドガァ~ン…ブア~ン、パラパラーン、ガラガラ、ザーアー、「ドターン」 サラサラサラー”。
 鮮やかな黄色の小型スポーツセダン(高級車)は、仕掛けられたプラスチック爆弾の爆発で、遙か上空にふっ飛び、その破片が降ってきた。
 「ドターン」は、妙な事に原形をとどめたドアの一つがラストに落ちた音。
 イーサン・ハント(トム・クルーズ)に熱く寄り添いつつ、彼女は爆破スイッチを強く握りしめた。爆破したのは、さっきまで二人が乗り回してきた車だった…。
 これは、映画「ミッション・インポッシブル」の1シーン。
 この洋画を観つつ“モッタイナーイ!”と、日本語でつい叫んでしまった。
 僕は、爆破されたこの小型ニューモデルにキュンと来てしまったのだ。
 “なんて こじゃれた車なんだ!”
 僕は女性もちょっと“こじゃれた 小悪魔”的なお人がキュートでたまらな~い。
 そういえば、我家のガレージ右端に、つい2ヵ月ほど前から、ドイツの小生意気なのがいる。それはBMWのi3(アイ・スリー)。アイの3だから、「愛サン」と呼ぶ事にした。

 愛サンのミッションは、この小さな葉山の町、山・トンネル・海辺をからめて縫う小道を縦横無尽に走って僕をあらゆる所に連れて行ってくれる事。愛サンはEV=Electric Vehicle (エレクトリック・ヴィークル=電気自動車)だ。
 高齢者施設のベッドルーム窓わきも、静かにすべって行く。においもCO2もゼロ。1回の充電で500キロメートルも走ってくれる。電気代は数百円で、重量税ゼロ。町や国からの助成やキャンペーン中は、年間のガソリン代相当分の助成金もあり、とても助かった。

 “助かる”という事で、次はムービー・ストーリーの様な、実際にあった話……。
 あの2011年 “3.11”大地震の時。地震の翌日、ガソリンスタンドは長蛇の列で、1台につき、わずか10リットルまでの補給という事態が発生した。
 その列を横目に僕は、EVリーフの初日のハンドルを握り、国際新堀芸術学院に向かう事が出来た。
 日本が世界に先駆けて発売したEVリーフは、なんと大地震の前日に、こちらの支店に運ばれていたものだった。地震の翌日、3月12日の葉山は、信号機も復旧し、津波も建物の大きな倒壊もなく、急速に平時を取り戻しつつあった。その様な中、ピカピカのEVリーフは我が家に来た。僕は大きいガソリン車は休ませ、リーフを大活躍させる事にした。
 この時以来、小型EVを使用する事が多くなった。大幅に改良された2代目のリーフも今は藤沢(学院)と葉山(自宅)を結ぶ、主要な車として働いている。もちろん以前記したように、藤沢本館は全車EV時代を目指した充電設備をした。

 新車 BMW・i3(愛サン)の話に戻そう。

 今年6月に届いた『driver (ドライバー)』誌のBMWi3の評では“〇はスーパーカー並なボディ構造、×はデザインの個性が際立ちすぎ”とあった。
 これって妙だ!?
 他車の×欄は、“~が重すぎ”とか“~が未導入”とか“~先行が心配”とか“~仕様設定がない”など、×の理由をはっきりと述べているのに、i3だけは“個性が強すぎ”と書いてある。これって×ではなく、◎だと思うのだ。
 だって胸が最もときめく世界一のクルマは、やはり強烈な個性のランボルギーニじゃないか!?
 そもそも今、世界中のクルマの大半の顔の原型は、30年前のランボルギーニが最初に描いたものだ。イタリアのデザイナーってやっぱり先を行っている!ちなみにランボルギーニの後ろ姿の毎年の新鮮なデザインは相変わらず強烈!
 “愛サン”評に戻ろう。
 “i3は、EVの課題である重量増を積柱策で改善。ボディ骨格はCFRP(カーボン繊維強化樹脂)製で外板は樹脂製、シャシーはアルミニウム製とし軽量化、スーパーカーの様なEVであり、走りは感動的に軽快だ”…。
 “走りは感動的に軽快”だと!? とてもとてもそんな普通の言葉で表せるようなもんじゃない。僕は車(クルマ)のハンドルを握って70年! 仙元山(せんげんやま)中腹の我家への坂道を上り下りした車だけでも、レクサス、プレジデント、ランボルギーニ、ロールスロイス、ベンツ、テスラ、リーフ、スマート…。ここは二車線でカーブが多いが、夕日と朝日、両方の景観を楽しめる山道だ。マンホールが点々とあり、我家の車庫へは、斜面を上りつつ90度に曲がれないと入庫できない。
 入庫の際、ランボルギーニは車高が低いのでアゴや尻を擦りやすく、大きなロールスロイスはボディが接近しすぎの警告灯がつきベルが鳴る。AI搭載のテスラは、左後輪と右前輪がマンホールのフタを0.5秒ずれて踏むと、ねじれたエネルギーを処理できなく、くたびれた昔の軽自動車の様なノイズが出て未来の車の夢が壊れてしまう。
 しかし、しかしである。この小生意気な愛サンは、急カーブ中のマンホールも、曲がりくねった斜面も、小難しい入庫も、まるでどこ吹く風。
 “何もかもわかっているわ~”と言わんばかりに、夕日を前後左右に浴びながら悠然と走ってくれる。
 愛サンは小柄だが電池板敷による低重心実現で安定性が高まり、カーブでのマンホールがあってもロールスロイスの様な安定感でなめらかに走行してくれる。運転していると、まるで人生経験を積んだ豊かなヒップのセクシーな彼女と、ローソクの灯が揺らめくカウンターバーで、大好きなマルガリータを傾けつつトークしている様な幸福感が漂う。
 2021年7月には1年半ぶりに、ここ葉山から藤沢の本館へ、この“愛サン”で行こうと想っただけで少年の様にワクワクしてしまった。
 感染する危険は高まるが、2回目のワクチン接種を6月に終えた僕の身体は、コロナウイルスに対する抗体がつくられ、うつらない・うつさない率が高まった。それと、自身の免疫力を信じて…。
 本館では、職員と近未来の夢を語り合いたい。
 “僕の老後の事を話しに藤沢に行くんだ”
と ついワイフに告げたら
 “ドヒャ~ッ?!!”
と、尻餅をつくほど驚いて大笑いされた。
 金さん銀さんだって、テレビ出演のギャラの使い道をアナウンサーに聞かれたら“老後にそなえま~す”って、言っていたじゃないか…。
 僕は“長老”という言葉が好きだ。長年の熟した「英知」と「慈愛」が漂っているように感じるから…。「長老」の称号を頂けるのは100歳を通過できた人だ。
 長老になる前に、「老」を使ってしまったら年寄りくさくてダメだ。
 僕は少なくとも後3~4年はかなりの確率で生きられると思う。それでも長老にはまだなれない。目標は100歳は通過駅で、102歳はターミナル駅(終着駅)…かなぁ~?
 その時は、ロングブーツのお嬢さんのお迎えのクルマに乗り換えられるように、秘書さんにお願したところだ。