【90歳夢道10】プログラミングが命(2)

チェンバロギターアンサンブル 2021年11月17日 ベネチアのピエタ教会にて
 チェンバロギター群(スチール弦)のサウンドは、ナイロン弦を使用している他のNメソード・ギターの音とは明らかに異なります。海外公演のリハーサルでも、初めてその音を聴いた現地のスタッフが作業中でも注目するほどです。
 バロック時代の曲を演奏する時、本番では衣装も曲にあわせてバッハやモーツァルト時代を思わせるものにします。女性奏者は古楽器を思わせる小さなアルトチェンバロギターを持ち優雅に登場し、男性奏者が少し大きめのチェンバロギターを持ってそれに続きます。チェンバロギターはその楽器自体、サウンドホール(ロゼッタ)やブリッジ等にバロック時代を思わせるに装飾が施されている物が多いです。サウンドはその時代の音楽にピッタリ…どころか、鍵盤楽器のチェンバロではできない、音の強弱や音色の変化までできてしまうのです。何故ならば、チェンバロギターも音色の変化が得意な“ギター”ですし、右手に使う装具(各指に針の装具やピック、または素手)によって様々な音を生みだせるからです。
 更に一人で演奏する鍵盤楽器のチェンバロとは違い、アンサンブル(複数人)で演奏するので、見た目も鮮やかな表現ができるのです。曲の最後の和音などは、わざと右の奏者(低音)から左の奏者(高音)に順番にずらしながらプラガール(低音から高音に向って弾き下ろすアルペジオの一種)をして、ジャララララ~ンとかき鳴らすのです。
 バッハ、ヘンデル、モーツァルトさんが聴いたら、満面の笑みで、このアンサンブルのために、新曲を進呈していただけたかもしれません。

 プログラミングの話に戻します。
 第1曲目は、爽やかに躍動感を持って膨らむ音量とメカニックの上級技術で押して行けば、聴衆に注目していただけるでしょう。いわば幕開けの役割です。しかし2曲も同じ色合いで持って行くと、聴衆は「このコンサートは、こんな感じで進むのかな?」と、先入観(飽きる要素)を持たれてしまうかもしれないのです。
 故に私は、2曲目は1曲目の勢いや流れは壊さないで、サウンドは少し変化させます。
 例えば、勢いのあるフルートコンチェルト等を演奏するのです。
 第1曲目でギターオーケストラの音(トータルサウンド)をいっぱいに響かせておいて、第2曲目は、フルートなどを主役にして、指揮者は一歩下がるのがコツです。
 そうしておいて第3曲目は、全く違うサウンド=チェンバロギター群等を出すのです。
 すると聴衆の大半は、第4曲目の予想が立たなくなります(余談ですが、野球で言うならばピッチャーが次に投げる球種を分かりにくくするのと似ています)。
 しかしです。実はプログラミングをする側もここは難しいのです。読者の皆さんならどうしますか?コンサートのコンセプトを守りつつ、“うちの味” “たたずまい” そして、ここまでの “流れ(を壊さない為の曲=構成)” が必要になります。
 私は第4曲目に伝統的な「ギター独奏」などをプログラミングします。特に地方(各国)で私達を呼んでくれた人(招聘者)や、その地の有名人が、この独奏の出演者であれば最適です。そのような演奏者の登場に、客席からは色合いの違う拍手が起こり、遠方から来た私達への親近感すら膨らませていただけます。
 その次の選曲は易しいです。いったん小さな“仕切り直し”をしたからです。でも隙を見せないで進みます。
 ここで新堀ギターオーケストラでなければ出来ない曲、日本人の作曲・作品、NRM等のオリジナルで、サラリとした曲にします。例えば、いしづかまさとし氏のものならば 「シベリア鉄道」 のような曲、杉原俊範氏の作品ならば 「風の旅人」 等です。
 そして次は第1部のシメの曲になります。盛大な拍手をいただきたいのであれば、音圧が高い曲が相応しいでしょう。例えばエレキギターとギターオーケストラのための曲などが相応しいです。この分野では百瀬賢午氏の作品がズラリとあります。「風神雷神」「イオスの涙」「ゴールド・ラッシュ」等々です。
 さて、ここまでのプログラミングは私の理想で、実際に演奏会でも実践されたものですが、今回の9月のNオケ公演では、このようにはならず、やや変化球の形で整えました。
 実際の前半のプログラムは、次の通りになりました。
 ①Nオケ・寺田和之指揮/フィガロの結婚・序曲(モーツァルト~寺田編) ②チェンバロギターアンサンブル/夜空の飛行船(畑中雄大) ③とちけん(間宮優佳と三浦謙斗)プライムギター2重奏/ハンガリー狂詩曲第2番(F.リスト~三浦編) ④Nオケ・田口洋美指揮/みちのく(畑中雄大) ⑤Nオケ・石塚政俊指揮/シベリア鉄道2023(いしづか まさとし)

 理想的なプログラミングの話に戻りましょう。
 第2部の前は大抵15分間の休憩(日本公演の場合)がありますが、ここでは非常に大切なテーマがあります。この15分間を活用して、舞台の転換・準備ができるという事です。
 グランドピアノの移動もやれますし、エレキ系ギター群のセッティングもやれます。太鼓群(例えば交響詩「才の神」の演奏など)のセッティングは15分では困難ですので、休憩時間を長くするか、第1部の最初からセットしておくことになります。勿論、奏者のコスチューム(衣装)を変える事は充分にできます。
 舞台転換を必要とする曲が可能ですが、第2部の幕開けに相応しく、そのコンサートに適している曲に限ります。

 実はコンサートのプログラミングは、まずメインとなる曲・ラストの曲から決め、次に幕開けの曲を決めるのが先です。それから内側を埋めていく順番がやりやすいです。
 例えば、メイン=ラストの曲を、「W.M.(ワム)80」(=「ワンダフルモーニング」のテーマによるピアノコンチェルト)にしたとします。こちらはピアノとTwinkle(ソロあり)とギターオーケストラの共演曲で、料理で言えばコッテリ!ボリュームのある充実した曲です。ですのでこの前は、軽くリズミカルな“ポルカ”など最適でしょう。または、小アンサンブル=美しい音色の女性重奏(DⅢやSWAN)で、また、その前後はDANROKの激しいパフォーマンスも組み合わせる事が出来ます。

 すると第2部の頭はかなり幅を持って入れます。
 例えば、和風でいくならば百瀬賢午の「花宴」。この曲は笙(ショウ)や邦楽用の太鼓、演出として舞いも入れる事ができ、演出面での工夫ができます。またNRM「長篠」等も合います。
 洋風なら、ゲストも加えた明るいギターコンチェルトを1楽章のみ。例えばヴィヴァルディのギター協奏曲ニ長調を、複数人のソリストでリュートも加えてみるのも華やかで良いです。
 メインの曲に歌が入っていないのであれば、「マイ・フェア・レディ」などもありです。また、ここに流行している曲などを入れるのもありです。
 オケで軽めの曲を2曲(和風・洋風の組み合わせでも良いです)にするか、以下のような、少し長めの曲を1曲にしても良いです。
 長めの曲では、「威風堂々」や映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」のテーマ曲「彼こそが海賊」なども良いです。どちらもエレキ群が活躍する曲で、第2部の頭だからこそ転換が可能な曲です。
 いずれにしろ第2部の頭は、斬新・華やかな曲が良いです。なぜならば、第1部はクラシカルなイメージで、衣装もおそらくシックで黒のドレスや燕尾服などです。ですので、第2部は衣装も華やか(カラードレス)にして、曲もそれに合わせた方が効果的なのです。
 このように第2部の1曲目は、比較的長い曲でもOKです。(セッティングにも時間をかけていますし…)
 1曲目が長めな場合、2曲目は、小アンサンブル=DANROKか女性重奏のどちらかを、前後の曲にあわせて決めて行けば良いです。
 締めの曲を「W.M.80」にした場合は、これはドラマがあり演奏時間も短いとは言えませんので、アンコールは無しにして、カーテンコールを少し丁寧にやる。または、さらりと温かく 「森のワルツ」(新堀寛己)や「アルハンブラ宮殿の想い出」(ターレガ)など、1曲にするのが秘訣です。締めの曲が、シュトラウスのワルツなどでしたら、ポルカ・シュネル(速いポルカ)をアンコールにするのも良いです。

 私達が主催しているコンサート、例えば9月のNオケ公演等では、その年のテーマ(2023年の標語は「心に太陽を 世に平和を」)や社会情勢に沿っての“コンセプト”があります。それに加え、その年の新堀の音楽芸術グループとしての“プレゼンテーション”があり、更に“伝統曲の演奏”があります。
 創立66周年となった今、辿り着いた一つの豪華な音楽形態に 「W.M.80」 があります。これは前項でもご紹介しましたが、ピアノとTwinkle(五重奏)とギターオーケストラの為の曲です。
 なんと言う音楽形態で表現したら良いのか迷います。独奏楽器3つとオケが共演する…例えばベートーヴェンのトリプル・コンチェルトと言われるものは、ソロの楽器が3種類=ピアノとバイオリンとチェロですが、それとは違います。
 あえて表現するならば、ピアノとギタオケとの関係はコンチェルトであり、Twinkleとギタオケとの関係はコンチェルト・グロッソ(合奏協奏曲)なのです。
 この様に「W.M.80」の音楽形態はギターオーケストラに加えて、ソリスト(ピアノ)のパフォーマンスとNメソード・ギターの五重奏、その3つが同時に楽しめてしまうのです。非常に贅沢な形態なのです。
 プライムギター(伝統ギター)とピアノは、親子関係(ギター属が発展してピアノのルーツの楽器になった)なので、音色は似ている部分が多く(音が同化しギターの音は聞こえなくなる)、しかし音量・音力は全く違うので、実は合せづらい組み合わせです。おそらく生音同士でしたら、ギターの単音はピアノの音にかき消されてしまいます。なんとかPAで工夫して、この2重奏が披露される事もありますが…。おそらくプライムギターのみの合奏がバックでは、ピアノコンチェルトは成立しにくいでしょう。
 ところが、Nメソードの各種音域ギターを使用したギターオーケストラでは、充分にピアノの音に対抗できるのです。ですので、私たちは今までに何曲も有名なピアノコンチェルトを、ギターオーケストラをバックに編曲して発表してきました。
 これに更に、温かいギター五重奏の魅力も加えたのが、この「W.M.80」なのです。
 この曲が大拍手をいただけた要素は色々ありますが、何と言っても黄色の優雅なドレスの女性たち(Twinkle)の微笑みと温かい艶のある音色が、ダイナミックなピアノとオケの間に入ったことで、なかなか今迄にはないサウンドと音楽構成が実現できたことが大きいでしょう。
 この曲は、私のオリジナル作品の中で最も各国・各地で演奏していただいている 「ワンダフル・モーニング(W.M.)」のテーマを用いた素晴らしい作品です。ギターとギターオーケストラ、そしてピアノを熟知していたからこそ書けた作品です。その作曲者は大宮哲氏です。
 彼と私の出会いは彼の国立音大生の時代(1962年)。そして大宮氏は音大卒業後、新堀ギターに就職してしまったのです。その時からずっと、いかなる時も(ピンチの時も順調な時も)私と共に歩んで来てくれた人です。この曲は大宮哲氏だからこそ書けた作品だとつくづく思います。(彼のピアノの演奏にはギターの音色の温かさも感じる事ができるのです)。
 「W.M.80」 の題名“W.M.”は、「ワンダフル・モーニング(Wonderful Morning)」の事。“80”は私が80歳の誕生日にプレゼントしていただけたので…。
 この曲をシメに置くと、理想のプログラミングが叶うという夢道の話でした。
W.M.80の演奏。