【90歳夢道12】編成夢道(2)

 現代の聴衆が感動のあまりにサァ~と立ち上がって「ワォ~、ブラボー、マーバラス、グレート、ワンダフル~!」 等と歓声を送ってくれる素晴らしい演奏の仕掛け(理想の編成)をお話します。欧米やアジアの各ホールで、私達が体験した実例です。
 
 現在のクラシック音楽界で達した最も豪華な編成は 「管弦楽オーケストラ」 でしょう。これは弦楽器群に吹奏楽器群、それに打楽器も入った編成です。見た目も実に華やかですし、音量もあり多彩な音が楽しめます。昔は限られた一部の人達が、この管弦楽オケを楽しみましたが、今は誰もが楽しめる時代になりました。
 
 そして21世紀の今日、音楽を楽しむ人口は増え、アイドルやバンドのライブには5000人から数万人のファンが来場するようになりました。更に、様々なグループが出演するフェスティバル等では、もはや聴衆はホールには収まらず、野外で数日に亘り開催されているものもある程です。
 また、クラシックでも、キャパ2000名以上の音楽ホールが世界中に出来ています。
 
 しかし、現代のように世界でグローバル化・デジタル化が進むと、コンサートも没個性に陥りやすくなります。どの国の人の音楽を聞いても似たり寄ったりというのは面白みに欠け、その国ならでは、その土地ならではの音楽を求める聴衆も多いと思います。
 食べ物に例えるとわかりやすいかもしれません。藤沢だったら生シラス、三崎ならカツオ、北海道の鮭、香川の讃岐うどん…etc. それぞれにその土地ならではの名物があります。
 音楽でもそれが求められて当然でしょう。例えば日本の人は、インドに行ってベートーベン、ブラジルでショパンを聴きたいと思うでしょうか? 普通は、その地域の音楽に接したいと思うのではありませんか? 
 別にインドでベートーベンを演奏してはいけない、と言っているのではなく、コンサートのプログラムの中に、その土地ならではの音楽も入れた方が良い、という事です。
 ですから、日本の私達のギターオーケストラの場合は、伝統ギターの音楽やクラシックの曲もしっかりと演奏し、それに加えて 「日本味」 「ギタオケ特有の味」 の曲を入れています。
 
 現在もクラシックギター界では、マイクを通した音やエレクトリックな音は除外される傾向で、エレキギターは異端児的扱いを受けている面もあります。エレキギターの歪ませた音を連発されると、私自身もその音には抵抗がありますが、エレキギターにも美しい音は存在しています。それは音色の調整次第なのですが、特に私達が開発に携わったアルトエレキギターは澄んだ美しい音を基本としていて、高い芸術表現が可能です。ですからNオケでは時にはエレキギターも使用しています。

 前述しましたが、生ギターの弱点は、ヴァイオリン属と比べて音量が少ない事です。しかし私は、どうしてもギターオーケストラで世界の名曲を演奏したかったのです。そこで管弦楽オケの楽譜で、管楽器のパートもギターに振り分けて演奏してみたのですが、やはり音の変化が乏しく感じました。だからと言って、金管楽器などをそのまま入れれば、ギターとのバランスがとれず、金管楽器をミュートすれば、その楽器の魅力が減じてしまいます。またギタオケのメンバーで、音量を調整しながら金管楽器を演奏できるメンバーもいませんでした。そこでシンセサイザーで管楽器を代用していたのですが、見た目が面白くない…。このように悩んでいた時に登場したのが 「電子吹奏楽器(ウインドシンセサイザー)」 です。比較的に演奏は容易で、音色と音量の調整ができて、ギタオケとバランスをとる事ができました。これを5名(本)加える事で、ヨハン・シュトラウスのワルツやポルカはいっそう楽しいものになりました。
 しかし、このようにするにはギターオーケストラは50名以上の編成であることが必要です。これだとティンパニーやタンバリン等も普通に音を出すことができます。ギターのみの編成では、打楽器奏者に、「音量は弱くタイミングは遅れてはいけない」という技術が必要でした。

 大編成で、シンセサイザーなどを入れたギターオーケストラの音圧だと、グランドピアノも気兼ねなく音を出せて、今までに無い編成の音楽が生まれました。それは大宮哲作曲のピアノとギター五重奏とギターオーケストラの共演によるコンチェルト「W.M.(ワム)80(「ワンダモーニング」のテーマによるピアノコンチェルト)」です。
 ピアノは弦をハンマーで打つ楽器で、ルーツをさかのぼれば、ピアノ→チェンバロ(鍵盤ありの撥弦楽器)→ギター属(撥弦楽器)です。
 ピアノのルーツ(母)がギターで、ピアノはその子供で親族なのです。音色が似ている事も当然です。そしてギターもピアノも、音楽の三要素であるリズム・メロディー・ハーモニーを1台の楽器でやれてしまいます。ですから作曲家達は、ギターかピアノ(古くはチェンバロ)のどちらかを使い曲を作ってきました。
 そしてピアノもギターも、音を出した後は消えて行く減衰音の楽器です。
 このように、ピアノとギターは、音の特徴は似ていて、音量差はあるので、合奏をすればギターの音はピアノの音に埋もれてしまうのです。
 ですが、Nメソードの各種音域ギター使用のギターオーケストラに、電子吹奏楽器とパーカッションを加えた編成では、ギターとピアノの親族ならではの絶妙に溶け合う音の楽しさも開拓出来たのです。ぜひ「W.M.80」 をご視聴ください。

 次は 「協奏曲=コンチェルト」 についてです。これは独奏の魅力と、オケの醍醐味を同時に楽しめます。
 まず従来のギターコンチェルトに手を加えて、更に楽しめるようにした例からです。
 ジュリアーニのギター協奏曲イ長調Op.30で、それを行ないました。
 従来はソロ(一人)とバック(オケ)という形ですが、ソリストを2人=二重奏(掛け合いもあり)にしたのです。二重奏だけではなくソロ(独奏)の部分も残し、ソロ,二重奏,オケが、それぞれ楽しめるようにしました。もちろん3者が一体となり演奏する部分もあります。

 続いて、前述しました「W.M.80」もコンチェルトです。
 これは前述したように、大編成向けの曲で、音量・力強さも出せる曲です。そこに優しさも加えるために女性4名+ギタロンのTwinkleをソロ群に加えたのです。形式としては、コンチェルトと合奏協奏曲(ソロ群とオケの共演)が組み合わさったものでしょう。
 グランドピアノとギタオケ大編成の力強いサウンドとは別に、透明な優しい女性重奏を配したのです。こうする事で、ピアノは更に輝き、オケもティンパニも更に冴えるのです。迫力ある音の中に、木漏れ日のような優しい女性奏者のギターの音色でソロと重奏の魅力を加えたのです。その結果、2000名の聴衆から海外公演の時のような、熱く長い拍手を頂けたのです。夢の編成の成功例です(2017年 横浜みなとみらいホール・大ホールでの公演)。

 最後は、正に新堀ならではのオリジナルです。そして 「管弦オケではやれない編成」 の話です。
 ギターは、元々は太鼓(音響箱=ボディ)に棹(ネック)を付け、糸(弦)をかけた楽器です。ギター製作者がボディの事を 「太鼓」 と言うように、ギターでは楽器を打つ 「ノック・ザ・ボディ」 という演奏方法が昔から存在します。
 ギターのボディ=音響箱は、表面板と側面板と裏板で出来ていて、打つ場所によって音色が変わります。更に右手をバチとして、打つ時の手の形、指の本数、手の場所(掌,関節,指の腹,爪)によっても音色が変わります。この打ち方と打つ位置で、騎馬隊が走る音や、小雨~大雨の音まで様々な音が表現できます。ギタロンなど大容量のボディの表面板をかぶせ打ち(手の平内に空気を入れて打つ)をすると、ドーンとお腹に響く音が出ます。高音のソプラノギターやアルトギターの裏板の左上(右にネックの場合)を鋭く1~2本の指で打つと、見事な鼓(つづみ)音が出ます。これらを大小多彩なギターで打つ事で、無数の音が出せるのが「新堀ギター太鼓オケ」の特徴なのです。
 一般的な打楽器(スネアや大太鼓,ティンパニ等)でも音の強弱は可能ですが、音色を変えるには楽器を変えるか、バチを変えないとなりません。ギター太鼓のバチ=右指は一瞬で変えられますし、打つ場所で音色を変える事も瞬時にできます。
 元々は、生徒さんのリズムの勉強のためにとスタートしたNRM(Niibori Rhythm Method)なのですが、小品から書き始め、作曲を重ねる内に、その可能性が大きくて楽しくなり、結局は大曲を書いてしまいました。また他の先生方も私の書いたものを素材に発展させ、多くの作品が生まれました。そして、NRMの曲集・教本は6冊になりました。
 現在、ギター太鼓(NRM)=ニイボリ・リズム・メソードの作品は、独奏から重奏・合奏曲まであり多くの人に演奏されています。
 2007年、ウィーンフィルの本拠=ウィーン楽友協会・黄金ホールでのNオケ公演では、雨音のNRMの表現(百瀬賢午作:雨~水と光のファンタジア)で、ウィーン子達が思わずホールの天井を見上げ、演奏後に大拍手になったのが印象的でした。
 北京・南京公演ではステージ上で演奏者が打つNRMのリズムと一緒になって聴衆が手拍子を送り、騎馬隊が迫る・馬の走る音(いしづかまさとし作:NRM長篠)は、どこでも大歓声で総立ちの拍手となりました。
 NRMの集大成と言える大作(シーン4から成る50分の曲)では「交響詩・才の神」(新堀寛己作曲)があります。この曲は、新堀ギターグランドオケに和太鼓群を加えて、長胴太鼓のソロ,タル群,ハンドベル,半鐘,摺鉦,ほら貝,スラップスティック,スレイベル,爆竹,風の音等々、シーン毎に様々な楽器(音)が登場し、視覚も工夫して、光と音とスモークも組み合わせ、更に演出まで加えたNRM+PLERA(プレラ=演奏者が演じるプレイヤーズオペラ)の曲です。オーストラリアではシドニーのオペラハウスやメルボルンのアーツセンターで演奏ができ、国家機関の支援も得て、この夢の編成もスタンディングオベーションを頂けました。