【90歳夢道11】編成夢道(1)

 前項では「プログラミングが命」と申し上げました。
 今項は、それらを作って行く、“編成、夢づくり” のお話をします。
 ようするに 「感動を呼ぶ奏者(楽器)の編成」 についてです。
 
 新堀ギター音楽院を創立した当時、新堀メソードの各種音域ギターは、まだこの世に存在していませんでした。
 ですから当時の日本でギターの合奏と言えば、主にプライムギターの2重奏やトリオが行なわれるか、またはそれをベースにして大人数で演奏するか、皆で同じ楽譜を演奏する事などが行なわれていました。新堀ギターもそうでしたが、少しサウンドに変化を持たせるために、レキントギターやテルツギターを導入している教室もありました。
 
 創立当時の新堀ギターも、そのようなギター合奏を行ない、レパートリーの開発(既成の楽譜ではない)では、ギター独奏曲を各声部に分けて数人で弾くような事もしていました。これも多くの人がギターに親しんで欲しいという私の願いからでした。何故ならば、初心者にとってギター独奏曲を弾くのは、なかなか困難だったからです。
 ギターの独奏では、ピアノ(初心者)のように主に左手が伴奏で、右手がメロディーというように、わかりやすくはないからです。ならば各声部=メロディー,内声,低音等を、各人に分けて演奏した方が、音楽を理解しやすいし、音楽表現も豊かにできるからです。しかし、これが他のギターの先生方・専門家から批判される的にもなってしまいました。
 
 確かにギター独奏譜を各声部に分けて演奏する事は、音楽を学ぶ方法の一つですが、これだけでは、私自身が満足していませんでしたので、各種音域ギターの考案・開発も始めたわけです。私は世界の名曲の大海原にギター合奏を出航させたかったのです。
 
 現代の聴衆は、コンサートでプライムギター(音域が狭く音が低い)のみの合奏を何曲も続ければ、きっと飽きてしまうでしょう。このサウンドも独特な魅力があるので、特に生ギターが好きな聴衆にとっては数曲ならば良いとは思いますが…。しかし、ここで神業的ギター独奏をすれば、そちらに聴衆は拍手を送ってしまうのではないでしょうか。
 
 「合奏」の楽しさの大きな要因は、音域の広さ・音色の豊富さで、高音・中音・低音の広い音域と音色、豊かな音楽表現なのです。これはギター合奏に限らず、バイオリン属,マンドリン属,ハーモニカ,リコーダー,コーラスだって高・中・低音の各パートがあって成り立っているのです。お芝居だって主役・相手役・わき役があるから面白いのです。
 
 現在の新堀ギターで、既に考案・実用化されている楽器・編成は、高音域にソプラニーノギター,ソプラノギター,アルトギター、そして内声(中音)にプライムギター、低音域にバスギター,コントラバスギター,ギタロンとなっています。ここに各音域のチェンバロギターも入ります。
 
 バランスのとれたアンサンブル(合奏)=弦楽四重奏の編成はバイオリン1と2,ビオラ,チェロですが、これを新堀の各種音域ギターでは、アルトギター1と2,プライムギター,バスギターの編成に置き換える事ができます。
 これに低音を強化した弦楽五重奏ではコントラバスが加わります。新堀メソードでは新堀ギター女性四重奏団(女四)の編成(ドリマーズⅢ世やTwinkleの編成)で、今はコントラバスのパートをギタロンが担当していますが、初めはコントラバスギターを入れた女性五重奏としてデビューしています。
 
 1974年に日本人女性8名(初代ドリマーズ,英国での名称はThe Daughters of Heven=ドーターズ・オブ・ヘブン)が約40日間に亘る英国ツアー(ロンドン公演を含む)を行ない、成功した編成は、アルト,プライム,バス,コントラバスギターの4音域の編成でした。
 日本で、レコードやテレビで活躍していたドリマーズのレギュラーメンバーは7名で海外公演のためにコンチェルトもやれるようにと1名増強したのです。
 この初代ドリマーズの各種音域ギターでの編成は、アルトギター1が2名、2が2名、そしてプライム,バス,コントラバスギター(C.B.)が各1名ずつの7名編成でした。この当時、新堀式のギタロンは、まだ開発中だったのです。
 実は、初代ドリマーズは、低音のC.B.以外がプライムギターで演奏する曲も豊富にありました。ですので英国ツアーでは、特別注文のケース(ギター2本と衣装を収納できる)を用意して、ほとんどのメンバーが楽器を2本ずつ持って行きました。
 
 このプライムギターを中心としたレパートリーは、1973年に全音楽譜出版社から出された「ギター合奏ファミリーコンサート」にも掲載されています。代表曲がフォスターの「夢見る人」,シューベルトの「セレナーデ」などです。しかし、この曲集には各種音域ギターを使用した楽譜も掲載されています。 
 英国では、両方の編成のレパートリーに加え、コンチェルトも演奏しました。
 そして1974年、英国のマスコミは、この各種音域ギターでのギター合奏を「日本人の発明、ロンドンで成功!」という大きな見出しで報道してくれました。「ギターオーケストラ」という言い方で、楽器編成を絶賛したサンデータイムズ紙の報道は、新堀ギター音楽院史の映像にも残っています(YouTube「Niibori TV」で視聴可。藤沢市にある本校・本館の新堀ミュージアムでもご覧になれます)。
 これ以後、日本のギター専門誌や組織も、「新堀のギター合奏」を「邪道だ!」という人は減り、むしろ積極的にギター合奏や新堀式の編成を重視してくださるようになりました。
 
 そしてこの当時、女性によるギター合奏団が、新堀ギターでもブームとなり、多くの女性合奏団が生まれ、活躍しました。ドリマーズの後に海外(スペイン)公演を行なった「ウイングス」(テーマ曲が「歌の翼に」で、後にドリマーズⅡ世を襲名します)、また「マーガレット」等…。
 
 ギタロンは、東京オリンピック(1964年)の時に来日したマリアッチの演奏(TV報道)で発見したのですが、それを新堀メソードの楽器として改良するまでに時間がかかり(楽器と弦の両方の開発で、現在も研究・開発中の部分があります)、この英国公演では使用されませんでした。本格的に導入し始めたのは英国公演後のNE(新堀ギターアンサンブル)の編成からです。
 
 ギタロン(Gr.)が使用可能になり、その音に包まれたギター合奏の編成が主流となり、中学・高校生達のギター合奏も飛躍的に増し、現在はこのギター合奏による日本一(世界一)を競う時代に入っています(ギターの甲子園=学生ギターフェスティバルや、全日本ギターコンクールで)。
 
 新堀式ギター合奏原点の最小が、いわゆる女四=新堀ギター女性四重奏団の編成(アルト1と2,プライム,バス+ギタロンの5名=Twinkle,ドリマーズⅢ,Ⅳの編成)、そして世界のギターアンサンブルのトップを走り続けているのが新堀ギターアンサンブル(NE)です。
 
 初代NEの基本編成は16名です。このアンサンブルは楽器の持ち替えも頻繁に行ないますので…アルト1が4~5名(ここから時にはソプラノに1~2名、協奏曲のソリストに1名が移動)、アルト2が3名(1名がソリストに)、プライム4名(アルトチェンバロギターとプライムにチェンバロギターに2名)、バス2名、コンバス1名、ギタロン1名です。これに打楽器(スネア,タンブリン,カスタネット,タル,グロッケン)やリコーダー,フルート,鍵盤ハーモニカ,バンジョーなど、メンバーが持ち替えて演奏します。ギターだけの編成では7~11名で演奏する事もありました。2023年現在では、20~27名の編成が、最もギターアンサンブルの理想として定着しています。
 
 “ギターオーケストラ”という呼び名は35名位からですが、50~80名が標準編成です。100名以上は “グランドオーケストラ(GО)”と言っています。ウィーン公演を行なった新堀ギターグランドオーケストラは約130名編成でした。その先は、200名、武道館での300名、そして400名の記念オケなどがあります。
 一番の大編成は、NHKが企画した「千人の力」で実現してグランプリを頂いた大島村村民による千名の「我楽多(がらくた)オーケストラ」があります(指揮は当時Nオケ指揮者の小山清氏)。こちらで使用した楽器はギター以外も多く、コップや鍋などを叩いて参加した人達もいました。しかし、新堀メソードでは千名でも合わせる事ができるという証明にもなりました。こちらも音楽院史の映像でご覧いただけます。
 
 「編成」は “音づくりの設計図” です。これがしっかりと出来ていないと、どんなにハイレベルな奏者を揃えても、聴衆を感動させる(総立ち拍手を頂ける)演奏からは遠くなります。
 故に私は、指導をする時は 「編成」 を最初にチェックします。
 各地に様々なギター合奏が存在しますが、理想としては各種音域ギターを使用し、ギタロンも入った編成を基本としてください。
 
 日本人は、ついメロディー(高音)を中心に考えてしまいますが、西洋音楽(ハーモニー)の土台を作っているのは低音であることも意識してください。20名ほどの編成でしたら、低音楽器の特長からバスギター2本,コントラバスギター1本,ギタロン2本の割合が理想です。
 
 現在、内外のステージで人気が高いDANROK(ダンロク=新堀ギター男性六重奏団)6名の編成は、前述の合奏の編成とは異なり、ソプラノギター,オーソドックスなプライムギター,リズム主役のプライムギター(フラメンコギター含む)で、大きな特徴は複弦プライムチェンバロギターをここに入れている事です。そして低音はバスギターとギタロンです。これは6名で最も 「強力な音圧」 が出せる編成です。
 
 DANROKは “世に元気をプレゼントする!”という使命があり、ギターで最も音量・音圧が出せるラスゲアード奏法も使用し、ノック・ザ・ボディ(ギター太鼓)を全員が行ないます。様々な掛け声や足踏み音、立ち上がってのアクションもやります。立ったまま演奏する事もあります。
 そしてこのような熱く激しい演奏ばかりでなく、伝統ギター本来の透明度が高く、輝いた太い音も出せます。全員が国際新堀芸術学院卒で、リーダーの田口尋夢はクラシックギターの独奏でもコンクールで第1位を受賞し、ギター独奏者としても活躍しています。看板曲の「ロック・オブ・モーツァルト」の第2テーマのソロ音をお聞き頂ければ耳の良い人ほど、その美音に感動すると思います。
 
 2023年4月にはDANROKをメインゲストとしたポーランドでの国際ギターフェスティバルで国際親善公演を終え、その素晴らしい反響は、ネットでも話題になっています。このDANROK編成のアンサンブルも各地で次々に誕生しています。
 DANROKの編成のように、プライムチェンバロギターとソプラノギターが加わると、倍音効果が上がり、音圧を感じる演奏が実現しやすいです。
 
 私が考案して、実用化に成功したギターは現在27種ありますが、その中で、少人数の編成でも最も豊かな響き・余韻があるのはチェンバロギターアンサンブルだと感じます。ここで使用しているチェンバロギターは、高・中・低音の各音域のギターで、全て複弦(6コース12弦)を使用しています。複弦はふくよかな音で、単弦はクリアな音色です。以前は単弦が主でしたが、現在は複弦が主流になりました。そして全てのチェンバロギター(スチール弦使用)は、伝統ギター(ナイロン弦使用)より遥かに余韻が長く、遠達性にも優れた音で、倍音が実に豊かです。チェンバロギターの開発では、余韻が非常に長く、ファドで知られるポルトガルギターも参考にしました。
 
 チェンバロギター(スチール弦)が加わる編成やプログラミングは、ギター合奏のサウンドを新鮮にします。この音が入る事で、プライムギター中心の編成によるソフト音(音圧の弱い)のレパートリーでさえ、新鮮に活かす事ができます。
 
 編成について以下にまとめました。
(1)アルトギター,プライムギター,バスギター+コントラバスギターかギタロン(両方もあり)の編成。
(2)ソプラノギター(又はソプラニーノ)やチェンバロギターが加わったもの。
(3)チェンバロギター群だけの合奏。(チェンバロギターアンサンブル)
(4)プライムギター+低音ギターのみよる編成。
(5)打楽器や管楽器,電子楽器群を大幅に加えたもの。
(6)ギター太鼓群と和太鼓群を中心とした「リズムオーケストラ(NRM)」の世界。

 次項では(5)(6)の分野を語ります。      つづく