【90歳夢道5】拍手夢道史

2023年4月21日 ポーランド・ルビンでの公演(於:ルビン市文化センターMUZA)で、
  オールスタンディグオーベーションの成功を収めた新堀ギターDANROK。
 ポーランド・ルビンでの公演を終えて、17名のNメソードの奏者達が元気よく帰国しました(2023.4.27.)。
 ポーランドの隣国ウクライナでは実弾が飛び交っている状況での国際ギターフェスティバルでしたから、主催者は勿論、参加者・来場者の決意も並大抵のことではなかったと思います。Niiboriの奏者達も、平和への願いを持っての旅でした。
 今回、コンサートのメインゲストは新堀ギターDANROK(ダンロク=男性6重奏)でした。このDANROK公演の映像を観ましたが、DANROKの目的である “元気のプレゼント” が出来ていて良かったです。
 “DANROKが元気をプレゼントした”ことを裏付ける話からしましょう。
 それはまず、聴衆の “拍手” からも感じる事ができます。
 このコンサート開演時の聴衆の拍手はどこか悲し気でした。司会者が「DANROKの皆さんです、どうぞ!」と奏者を呼び出しての拍手なのに…。大抵は国内でも奏者の登場の時は、司会者がリードして場を盛り上げ、聴衆もそれに応え「待っていましたよ!」と期待を込めた拍手を送ります。
 ところがです。この時は、奏者への愛は感じられるのですが、静かな拍手…。今回、ルビンでは初めてのDANROKのコンサートだったので、「どんな演奏をするのだろうか?」という思い(様子見?)もあっての拍手だったかもしれません。いや、戦争の悲しみが漂っていたからかもしれません。
 ですが、ですがです!!
 1曲目の演奏が終わったとたんに熱烈な拍手に一変し、終盤では両手が痛くなった人が続出したのではないかと思えるほどの拍手になったのです。
 ついには、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、と一糸乱れない拍手のシンフォニー! よほど聴衆の心が一つにならなければ、あのような揃った拍手は生まれません。
 更にアンコールでは、このダッ、ダッ、ダッ、ダッの拍手の上に、「ニッ, イッ, ボッ, リッ」の声が乗って、大合唱となり、奏者が手を振り一人ずつ退場してもそれが続いたのです。
 映像を見る度に、この感動が味わえます(国際新堀芸術学院・本館2Fミュージアムでご覧いただけます)。

 私たち(Niibori)の初めてのギター合奏による海外公演は1974年、40日間のツアーで英国各地で演奏しました。英国女王陛下が関わる3つのホールの内では、パーセルルームとクロイドンホールで演奏しました。このツアーで、私が率いて指揮したのは女性ギターアンサンブル(ザ・ドリマーズ=英国での名称はThe Daughters of Heaven)。その時のコンサートでのことです。
 アンコール終了後に、聴衆が続々とステージに上がって来て…老婦人が両手で私の手を握り、強くハグと涙を浮かべて私に告げたのです。“グレート~グレート マーバラス!!” “あなた方の演奏中、私は間違いなく、故郷スコットランドでの少女時代に戻ることができました。ありがとう!本当にありがとう!素晴らしかったわ!” と。その時に私は “そうか、音楽・演奏は、聴衆の心を過去にタイムスリップさせる力があるのだ”と思いました。このことは、私は今迄にも文(著書・書籍)に記しています。
 拍手には、そのような計り知れない思いも込められているのだと思いました。
 ロンドン公演からの拍手の夢道は、今回のポーランドでは孫にも受け継がれました。

 大きなスクリーンで、私たちがいただいた拍手の歴史を見直すと、飛び切りハイレベルなものが、いくつも存在している事が確認できます。
 2002年5月、ポーランド・グリフィーツェで行なわれた小山清指揮での新堀ギターアンサンブル(NE)公演でのことです。
 私はこの公演で、ポーランドの作曲者・ショパンによるピアノソロ曲「ワルツOp.64-2」を、ハイレベルなアゴーギクでありながら一糸乱れないギター合奏の可能性の夢道を、高弟である小山指揮者はじめ演奏者に伝授しました。何度も繰り返されるテーマ(主題)は決して同じ表現はせず、特にラストの部分は、複雑なコントロールを伴ったフェイドアウトを要求し、それを彼ら彼女らは、この公演でやってのけたのです。
 この演奏が行なわれた聖マリア教会は大聖堂を思わせる規模で満席であり、ステージはフラット(1階客席と同じ高さ)でした。
 そしてこのワルツの最後の和音が天に昇って行き、それを見送るかような静寂の後に“バッバーン!”と爆発的な拍手と歓声によるスタンディングオベーションが起きたのです。小山氏は、一瞬にして目の前に聴衆の壁が出現した!と語っていました。これは拍手夢道を語る代表的なものです。
 私は熱海・ニイボリラボの82インチの大画面とスピーカーで、これらの歴史の1コマを楽しんでいます。拍手夢道の映像と歴史は、とてつもない宝物です。
 次は1992年、私が「日中国交正常化20周年・文化協定調印式」の日本代表に選ばれ、御所に上がり、担当の宮様にご挨拶を申し上げた後、総勢80名で北京と南京で、ギターオーケストラのコンサートを行なった時の話です。
 この公演のチケットは政府が管理しており、高位の方々から順に配給され、「即満員」となった報告は受けていました。ところが当日は想像を越える事態が起こっていました。
 一言で言えば定員オーバー事件なのですが、日本ではありえない光景でした!
 どうしてもこの演奏を見たい人達が何と、天井に近い窓から会場に入ってきているのです。その列は、どこまで続いているのか想像もできません。そんな会場となっていたのです。静かでクラシカルな演奏会場とは言えませんでした。
 “なんじゃ、これは!” 半ば、やけくそ気味でタクトを打ちおろしました。
 そして、私の選曲が更に聴衆の行動に火をつけてしまったようなのです。
 私が作曲した「NRM18・01 釈迦讃歌」の演奏では、日本ではありえない状況が客席で起きました。
 この曲は私が、日蓮聖人がお亡くなりになられた日(ご入滅の忌日)に営む法要=「お会式(おえしき)」で、人々が行進する時のリズム(音楽)を元にしたものです。
 これを作曲した当時、私は立正佼成会大聖堂の近く(杉並区和田)に住んでおり、お会式での独特なリズムと光景にふれていました。ですので、副題も初めは「和田まつり」としていましたが、中国公演の時には中国の人にも伝わるように「釈迦讃歌」としました。
 そして、この曲では、ギター太鼓オーケストラの前を、トーンチャイム奏者4名が楽器を鳴らしながら、舞台下手から現われ上手へ移動して消えていくという「移動音響」の演出をしてみました。これは音が近づいて来て、また遠ざかって行くという視覚と音の効果も出せます。
 確かに、癖になりそうな魔力的リズムの曲ではありますが…なんと中国の聴衆は客席でこれを真似し始めたのです。右腕をトーンチャイムを奏でる奏者と同じように振ったり、このリズムで手拍子したりと…。これらの行為で、聴衆の皆さんが、この音楽を充分に楽しんでいること、共鳴していることを告げてくれていたのかもしれません。はたまた自然と体が反応してしまったのか…それは謎です。

 次は、米国公演での話です。
 開拓者精神を理解している自由の国アメリカは、古い考え方に縛られず、個性的なもの、良いと思われるものに気付き、受け入れてくれる国であると感じます。
 そして2005年に、米国を代表するギターの組織=GFA(全米ギター協会)が主催するギターコンベンションにNE(新堀ギターアンサンブル)がゲストとして招かれました。NE公演(10/25)の会場は、オハイオ州オーバリン大学ワーナーコンサートホールでした。
 さすがに現代の日本では「ギター合奏は邪道だ!」などとは言われなくなりましたが、クラシックギター界ではエレキギターに対する抵抗感を持つ人はいるようです。しかし、ビートルズが勲章を授かった英国、そして米国のギター界は、エレキギターの良い面も日本のギター界より気付いているように思えます。
 Niiboriでのエレキギターは、クラシカル・芸術的な面を大切にしています。それでいて、エレキギターならではの魅力を出したのが天才作曲家 百瀬賢午の作品、2本のエレキギターによるコンチェルト「ゴールドラッシュ」です。バックはNメソードの各種音域の生ギターを使用したNE(特別編成)。この演奏での拍手は轟音(足踏み音)と「ブラボウ~‼」の大歓声付き!この映像も宝物です。

 私が日本全国、ギターアンサンブルを率いて指揮していた時(1960~1980年代)、沖縄と鹿児島では特に熱烈な大歓声がおきやすく、公演前の宣伝は国際通りは勿論、自家用車の屋根にまで掲示され、コンサートで聴衆は海外公演のような感動表現をしてくれ、それが何年もコンサートをする度に続いていました。そして沖縄は、新堀式のギター合奏が盛んな台湾やシンガポールに地理的にも近いです。ですので、私は沖縄にNiiboriの拠点をつくりたいのです。この夢の実現に動いてくださる新堀メソードの先生を募集中です!

 今現在2023年は、湘南藤沢の100室からなる本部が新堀メソードの中心です。生徒数は勿論、プロの奏者も最も多く集結しています。日本では少子化が進んでいますが、藤沢市の人口は2035年までは増加することが予想されています。勿論、全国一の入学者がありますから、本部らしい研究開発が続けられています。
 しかし、藤沢市民会館の建て替えはまだ先ですので、本格的な私たちの公演=新堀ギターオーケストラのメインコンサートなどは、今しばらくは他のホールを利用することになるでしょう。今年のメインコンサートは、大和市文化創造拠点・シリウスの芸術文化ホールで開催する事になりました。
 みなとみらい21(MM21)も、音響・景観・立地・利便性も素晴らしいホールで、ここでコンサートをしたことも多く、聴衆から地鳴りのような、ヨーロッパと同じような拍手をいただけることが多いです。
 特に2017年、新堀ギターオーケストラでの「NRM長篠」「こうもり序曲」「W.M.(ワム)80」、続いて2018年のコンサートで、オリジナル曲への熱い心のこもった大拍手は、いつの時代の人が見ても、心に残る“拍手夢道史”を飾るものでしょう。