【幸福道3】
新堀寛己の健康長寿考
日本の幸福度
OECD(経済開発機構)加盟25ヵ国を対象に行なわれた15歳の意識調査において、日本が最も多く(29.8%)「孤独を感じる」と答えたとの事。以下、アイルランド(10.3%)、フランス(6.4%),イギリス(5.4%)などで、日本が突出しています。
そして日本の15歳の将来の夢は、「のんびりと暮らしていきたい」が最も多く、「大きな組織の中で自分を発揮したい」や「自分の会社や店をつくりたい」という項目は最も低い結果となっています。肥満や生活習慣病は増加、学習意欲は低下、不登校や鬱病も増え、青少年の自殺者も韓国と並んで先進国のトップクラスです。
そして日本は、2017年度の世界幸福度ランキングは51位という低さで、これは欧米諸国と比べても遙かに下位なのです(国連,ユニセフ,厚労省等のデータによる)。
GDP(国内総生産),衣食住,医療,衛生度,安全度,厚い教育機関,交通網,輸送網,緑被率、清らかな大気に、美味しい飲める水、日本はこれが全て世界のトップクラスです。それなのに、このように幸福度の低い国は、地球史上でも存在しないでしょう。この異常な事態に対して、国のリーダー達=政治家から強いメッセージが出されない事に強い憤りを覚えます。
15歳の1秒1秒ほど大切な瞬間はありません。子供から、いよいよ100年を歩むか否かの大人へ入ろうとする重大なコンテンツを読み始める時です。本人が大いに迷うほど、大人達はたくさんの夢を想わせてやる時です。しかし今の日本では、「孤独」で「夢が持てない」多数の15歳を生んでしまっているとは…。
「孤独」は「幸福(道)」の真逆です。幸福には“人々が共鳴し合う喜び”が、しっかりと存在する事を度々話して来ました。
まず一人ひとりが自分の幸福を感じ、その先に愛しい幸福=持続する幸福(幸福道)へと行くと思うのですが、「孤独感」が最初に来てしまうと、幸福を感じる事は容易ではありません。
さて、“幸福道”の話に入る前に、一つ哲学をしておきまましょう。
それは、「孤独」と「孤立」の違いについてです。
「本当の孤独」とは、さんざん人々と接し、様々なイデオロギー(社会思想,ものの考え方)も知り、学び、悩み、喜びも知った上で、結局、独りで想い抜く中で“孤独の境地を感知する”という時に使うわけです。
故に、嫌な事や面倒な事から逃避して、自ら引きこもり独りになってしまった様な場合は、「孤独」というより「孤立」という方が適切でしょう。
15歳位で「孤立」してしまう原因は、それまでの環境や、様々な蓄積された問題も考えられます。この様な場合、周りの大人たち(家族や先生など)は、その子が「孤立」の状態から立ち直れるように熱心にサポートするべきだと私は思います。
新しい環境を整える、提案するというのも、改善案の一つです。
その子の拠り所となる居場所として、サークル活動や習い事を始めさせるというのも良いでしょう。
私は、江戸時代の三味線のお師匠さんの心意気が大好きです。それは音楽(習い事)の技術を超えて、弟子たちの縁結びまで買って出るような、お節介とも言える習慣です。
私自身、未だに専門学校(国際新堀芸術学院)現役の理事長兼学長を務めていますが、かつては新堀ギター音楽院の教室や専門校の担当教授として個人レッスンも大いに行なっていました。
音楽のレッスンをしていると、生徒さん・弟子たちの姿(性格)がよく見えて来ます。習い事の師匠には、お弟子さんたちは、何でも話してくれるものです。家庭の事、仕事の事、男女の事、未来の夢等々。師匠は、そこからその人の性分(生き方)が分かるので、プライベートの相談にも乗れるのです。特に恋愛問題は、両親にも上司にも話しにくいものです。でも、お師匠さんには話せます。ですからお師匠さんが縁を取り持って、仲人をすることが多いのです。以前、私達夫婦も大勢の仲人をしました。結ばれた人達は皆、我が子の様に思えます。その人達は今でも、私達を慕ってくれて、互いが思いやれる家族の様です。
今ではこの江戸時代のお師匠役を、私の弟子達が自然にやってくれています。これも正に「幸福道づくり」と言えるでしょう。そうして少しでも幸福感を感じた人は、前述の「孤立」にはなっていないし、「孤独」はあったとしても、皆で合奏し、師匠も弟子も一つになって共鳴し合い、背筋がゾクッとくる幸福道を歩んでいると確信しています。
不登校や鬱の子達が、ギター合奏に加わって、やがて挨拶もきちんと出来るようになり、服装は整い、何も指示しなくても掃除をやり、2年3年後には後輩の面倒も見られる様にすらなった少年少女が我が校にはたくさんいます。
呼吸が苦しくなる位に悩んだ子ほど、それを克服出来た喜びを忘れる事は出来ないでしょう。しかも、合奏=アンサンブル=バンドなど他の人と共感、共鳴し合う喜びを知った事は、格別です。自分以外の人の気持ちや心が右脳直感で分かる様になるからです。左脳中心の“お前の為に言ってんだよ”等の言葉の何倍もの力を持って響くのが、共鳴し合う理解、感動なのです。
素晴らしい例として、現在もDANROK(ダンロク=新堀ギター男性6重奏団)や新堀ギターの先生としても活躍中の田中重次氏の歩んだ道を紹介します。
彼は中学生時代、不登校となり、友人に誘われて新堀ギター音楽院の教室にやって来た時は、人を信じられないような暗い感じの少年でした。しかしやがて合奏団での人々との触れ合い、皆で作り上げる音楽の楽しさを知り、人と自然に会話をする事ができるようになり、国際新堀芸術学院・高等課程に進学を決めました。彼はそこで新鮮な水を得た若鮎のように成長し、瞳は輝き、彼の声はホール中に美しく響き渡り、ついに国際ステージのスターに選ばれ、サイン会では彼の前に長蛇の列ができるような人気者になりました。正に幸福道に乗ったと断言出来ます。
今の彼は折に触れて「感謝」「恩返し」の言葉を口にし、行動に表わします。ですから、人が集まり、その力は日本一、世界一を生みます。
2018年には第1回アジア国際ギターオーケストラコンクールで、彼が率いた合奏団が見事に最優秀賞を受賞。2019年の「全日本ギターコンクール」合奏部門でも最優秀を受賞し、その度に合奏団の皆さんや同僚、もちろん師にもいつも“ありがとう”を忘れません。実は、この“ありがとう”「感謝」の中にこそ「幸福道」が存在し、結果を出している事こそ、恩返しをしている事なのです。感謝こそ幸福を呼び、幸福道を導くのです。
次にこちらも素晴らしいお話で、90歳でオペラを作曲・発表し、105歳まで現役医師を続けられた日野原重明先生の言葉を紹介します。
「◎私自身、結核という大病を経験したことで、ちょっとした健康を喜ぶことができるようになった。幸福というものは、失われかけて、はじめて気付くものである。
◎私たちに与えられた恵みの数を数えてみれば、どんな逆境にあったとしても、受けているものの方が与えるものよりも多いことに気付く。受けた恵みを、どこかで返そうと考えてみよう。
◎鳥は飛び方を変える事はできない、しかし人間はいつからでも生き方を変えることができる。繰り返す毎日の行動を変える努力により、新しい自己を形成する事ができる。
◎身体のどこかに不具合があっても、朝目覚めたときに感じる爽やかさ、それが健康のしるしである。」(日野原重明記念かながわの会 会報№52,2020春号より)
田中君が悩んだ少年時代から、本人の決意で幸福道を呼び込み、それに乗り、成果を成し、その実を世界の人達に分かち、それを実現させてくれた全てに感謝している姿は、多くの人達に希望と勇気を与えています。
彼は今そこに存在している人です。尋ねれば優しく応えてくれるはずです。又、彼をここまでに導いた師匠たちもNメソードも存在しています。今風で言えば、言葉を超えた様々な動画も山程あります。あなたのクリックする1本の指が、100歳を超えての“幸福道”を引き出すでしょう。
私の祖父、新堀辨造(べんぞう)は、波乱万丈の人生を歩んだ人です。徳川家康の魂(国宝の数々)を永久に守るべく非常に厳しい心身と技術を叩きこまれ、神社仏閣の設計施工から管理運営、人の養成から新しい研究開発まで行なった宮大工上がりの棟梁、現代のゼネコンまでをあの時代で進めた人物です。日光では何度も盗賊に財を奪われ、東京時代には、都民の皆さんが24時間、いつでも温かいお茶が飲める様にしようと、設計した第1号ガスタンクの建設で“危険だ、やめろ!”と石を投げられ、何度も“もうだめだ”にぶつかった時…
“お天とう様は、いつだって温かく見守ってくださっている”(お天とう様=太陽の事)
と立ち直ったとの事。この舵取りこそ「幸福道」で歩む大元だと思っています。
【写真の説明】
中央が辨造(祖父)。母に抱かれているのが1歳の寛己(新堀三郎家、男子初誕生)。
86年前の写真。辨造設計による釘を1本も使用しないで建てたモダンな新堀本家宅の前で。