結論から先に述べると、「音圧」 が大切です。 現在まで、世界各地でオール・スタンディング・オベーション(聴衆総立ち拍手)を頂けた私達の演奏は、「音圧」のあるものでした。 感動を生む演奏には「音圧」は不可欠であるという事から、今項では“音圧を得る夢道”の話をします。 楽曲分析ができており、技術(メカニック)があっても、「音圧」の低い生演奏は、聴衆から飽きられる傾向にあります。 科学的に言えば、「音圧」と「音量」の違いは、「音圧」は空気の圧力変化を示し、「音量」は音の大きさ、聴こえ方の強さを表すそうですが、もしかすると、これから私が述べる事は、それとは少し違うかもしれません。かなり感覚的な話になります。「音楽の現場での感覚的な話」と捉えてもらって構わないでしょう。 さて、新堀ギター音楽院では大勢の音楽専門家たちが働いています。その中でも、ギタリスト、ギター専門家が最も多いです。そのほとんどの人が新堀ギターオーケストラに所属しています。 そして独奏者として、またデュオ(二重奏=Duo Ayumi, とちけん等)やトリオ(三重奏=SWAN)、クインテット(五重奏=ドリマーズⅣ,Twinkle)、セクステット(六重奏=DANROK)、また20名程の新堀ギターアンサンブル(NE)としても活動をしています。 その中で今、最も人気が高いのがDANROK(ダンロク=新堀ギター男性六重奏団)です。音圧がとても高いです。どこの国で演奏しても大きな拍手を頂いています。 もしもプライムギターばかりの6人での演奏ならば、DANROKの表現力には及ばないでしょう。例え10人、20人、30人とプライムギターばかりの合奏で人数を増やしてみても、DANROKのサウンドの方がハートに響いて来るでしょう。 人数を増やせば「音量」は上がります。しかし音の低いプライムギターばかりでは、「音量」は増しても、「音圧」 が増す事とイコールにはならないのです。 以下に、他の例を挙げます。 エレキギター(エレクトリックギター)は音量を上げようと思えば、ボリュームのダイヤルを回すだけで音量が上げられ、ドラムスやピアノやサキソフォンが同時に鳴っても、音がかき消される事がなく演奏出来ます。だからと言って、ボリュームを上げれば「音圧」も上がっているとは言えません。 また、生ギターでも、ラスゲアード奏法(全弦をかき鳴らす奏法)があります。特にフラメンコ(ギター)で多用される奏法で、これは踊る人の床を踏む音にも、強烈な手拍子の音にも対応出来ます。 しかし、クラシックギターの独奏でこれをやると、かき鳴らす音の部分だけが飛び抜けて聞こえてしまいがちです。 この音量の出せるラスゲアード奏法がヒントになり、後にNRM(ニイボリ・リズム・メソード)につながって行くのですが、その話は別の機会にしましょう。 クラシックギター(アコースティクギター)でも、電気を使うエレキギターでも、一流の演奏者たちは 「音圧」 がある演奏ができます。 「音圧」のある演奏は「ハートに響く」=「全身に響く」のです。 ハート・心とは 「脳」の事でもあります。 ですから、「脳に焼き付く」=「心に残る演奏」には、音圧が不可欠なのです。 では「音圧」がある「心に残る演奏」をするには、どうしたら良いのでしょうか? それには、倍音が響く音域の広い楽器編成と呼吸法・アクションが必要です。 DANROKは、この2点が群を抜いて素晴らしいです。 DANROKは全て生ギター(電気を使わない)を使用しています。 そして編成ですが、向かって左側の高音部から(1)ソプラノギター,(2)プライムギター1(ソプラノギターと一緒にメロディーを演奏する事が多い),(3)プライムギター2(時にはフラメンコギター,1のハモリや伴奏系),(4)複弦プライムチェンバロギター(スチール弦使用),(5)バスギター,(6)ギタロンです。 この編成は2024年現在、ギターの最大のウィークポイントと言える“音量も音圧も低い”という事を大幅にカバーしています。 20~21世紀のテクノロジーで音響も良く、大型になったホールやライブハウス、それにギター以外の楽器の性能も上がり音量が増した中で、生ギター(註1)は音色は美しいのですが、音程(実音)が低く、減衰音の楽器(註2)ですから、暗い印象を持たれがちです。 一般的にクラシックギターの独奏会では、演奏者の身体の動きは少なく、派手な演出もなく、これを2時間聴き続けてラストに感極まって立ち上がって拍手するという事は、セゴビア亡き後の21世紀の今では、とても稀な事になってしまいました。 〔註1:現代のクラシックギターはアンドレス・セゴビア (1893生-1987没)により、18世紀のギターよりも音量が出るように改良されています。〕 〔註2:音が小さくなっていく楽器=ギターなどの撥弦楽器,ピアノ,打楽器など。〕 一般的な管弦オーケストラの演奏も、奏者は楽譜を見ながらほとんど動かず、聴覚へのアプローチを優先し、視覚は考えない昔ながらのスタイルでは、現在のポップスでのライブ(註3)のように聴衆を増やす事は難しいと思います。 〔註3:何万人も収容できる会場で、音楽に加え、映像やダンスなど、大いに視覚も楽しめるライブが行なわれています〕 もちろん音を重視したクラシックの演奏会が大好きな人もいらっしゃいますし、この分野も大切だと思います。しかし、クラシックの音楽家の皆さんも、時には現代の聴衆を増やす、音楽愛好者を増やす事を考えて欲しいと思うのです。 私は、現代の聴衆を増やせる管弦オケについて案がありますが、それはまた別の機会に述べるとして、話を戻します。 さて、DANROKの音圧の出せる楽器編成は紹介しました。次に、この編成だと、どうして倍音が高まるかです。詳しく説明すると大変に長くなりますので、簡潔に述べます。 それは“倍音×倍音から生じる仕組み”を作り上げているからなのです。 次に、「呼吸法を伴うアクション」について説明します。 アクションは「音圧」を高めます。 素晴らしいアクションを伴う演奏は、確実に聴衆のハートをつかめます。 ここで言うアクションとは、振り付けの事ではありません。その曲の 「心・魂」 を表わすアクションの事です。 コンクールなどで審査員から“奏者が石の様に身動きをしていません。呼吸を深くして、もっと曲に沿って身体全体で表現してください”“明るいリズミカルな曲なのに、ゆっくりした横揺れの動作では曲にあっていません”“指揮の肘が下がって棒の先端が上を向いています。小さな上下運動のやれるフォーム・アクションにしてください”等々。これらは皆、正しい曲の分析(アナリーゼ)が出来てなく、曲にあったドラマ作り、アクションが分かっていないレベルです。 そして、曲にあった素晴らしい呼吸・アクションをするためには、次の事も大切です。それは、人間の豊かなエネルギーの基となる「食事」と「深い呼吸」です。 ステージに上がるという非日常の大きなエネルギーが必要な時に、食事(エネルギー源)への配慮ができない(食事・特に朝食を抜く、消化の悪いものを食べる、食べ過ぎる等々)。そして、ステージで深い呼吸ができず、身体全体に酸素を行き渡らせることができないと、「音圧」 が充分な素晴らしい演奏が出来る確率はかなり低いです。 そのような状態では、どんなに良い楽器で、良いタッチで、良い編成であっても、よほどの経験値を積んだ奏者でなければ、暗い演奏へ落ちて行く道を辿ってしまいます。常日頃から、ベストコンディションを維持するために様々な事に気配りし、練習の時から3時間を越しても出力が落ちないように、努力する事が大切なのです。 また、「深い呼吸」が出来ることは、健康長寿にもつながります。 ギター演奏の「音圧」=「インパクト」を上げて夢道を歩めるもう一つの方法があります。 それはNRM(ニイボリ・リズム・メソード)です。これはギターを打楽器として扱う分野です。 NRMでは、ギターの全ての部分(表面板,側面板,裏板 等々)を、右手で打ちます。 右手がバチなのです。そして人間の手指は、一瞬で変化させる事が可能です。手の形も様々で、拳,平手,空気を含ませる形(かぶせ打ち)、打つ指の数も1本から5本まで…、爪を使用する事もできます。道具のバチを使用しないので、バチの持ち替えは不要で、瞬時に音色が変えられます。 更に私はソプラニーノギターやピッコロギターの高音域の小型ギターから、ソプラノギター,アルトギター,バスギター、コントラバスギター,ギタロン(楽器を立てて演奏する)、各音域のチェンバロギターまで、大きさも容積も異なるギターを考案しました。 これらのギターの箱(太鼓)を、右手(バチ)の様々な形・打ち方を指定して、一人から数百人が行なうと、どのくらい音が変化すると思いますか? 例えば、ギタロンの表面板を右手に空気を含めた「かぶせ打ち」をしてボーンと鳴らし、その合いの手をソプラノギターの裏板を1本指で打って応えると、あのDANROKの音圧が得られるわけです。 更にチェンバロギター群も加えると、「飽きない音作りのエベレスト登山」への夢道を、明らかに登り始めた事になります。