私の父は、国家公務員(郵政省勤務)でしたが、琵琶(撥弦楽器)もたしなみ、母も音楽が好きでした。私も音楽が大好きで、小学生の時は歌とハーモニカ、中学でギターと出会い、「古賀ギター歌謡学院」(クラシックギターの阿部保夫先生に師事)で学び始めました。高校では器楽部を創設してもらい部長となり、その後、宗教音楽(キリスト教の音楽)も学べる青山学院へ進学。卒業後は高校教諭をしながら、新堀ギター音楽院を創設して…と、私は胎教まで入れると90年以上、音楽に接している事になるでしょう。( 詳細は「愛のサウンドを広めて」新堀芸術学院出版局刊 をご覧ください) そこで私が感じた話をしましょう。それは「人相」と同じに「音」にも 「音階相」 があると言う、世にも不思議な珍しいお話です。 「音相(おんそう)」は、一般的には、言葉を構成する音の響きから人々が受ける印象を言い、名前など複数の音からの印象になります。 また音楽好きの読者の皆さんは、調(Key=キー)や和音(Chord=コード)」のイメージ…例えば、「二長調(Dメジャー)は輝くように明るい」とか「ホ短調(Eマイナー)は優美・悲しい感じ」などと感じると思います。 しかし今回、私が触れるのは、それらとも違います。 「人相」 があるように、調や和音を構成する一つひとつの音の性質・特徴についてです。 確かヨーロッパの大聖堂で、各音の性格を表わした彫刻があったと思ったのですが…。それはハ長調(鍵盤楽器だと黒鍵を使わない、♭や♯を使用しない、ドから始める音階・調)を基準としたものでした。私もそれを基本にお話しします。 ハ長調の音階は、ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド (Do・Re・Mi・Fa・So・La・Si・Do) です。これは皆さんにお馴染みの言い方ですがイタリア名です。 ○○調という言い方は日本名で、ハ・ニ・ホ・へ・ト・イ・ロ・ハ。クラシック音楽でよく使うドイツ名はC・D・E・F・G・A・H・C。フォークのコードでもお馴染みのC・D・E・F・G・A・B・Cはアメリカ名です。 この1音1音がどのような 「性質」 を持っているか…。 まず、この中で非常に分かり易く強い性質を持った音は 「ド」 と 「シ」 です。 「シ」 は、最も癖(クセ)が強く、協調性に欠けます。人間でしたら、嫌われ者かもしれません。しかし彼無くしては勝利する事はできないポイントゲッターなのです。強烈な魅力、力を持っていますから、たまらなく彼に惹かれる女性もいるでしょう。しかしあまりにも一本気なので、ケンカは絶えないかもしれません。故に優れた作曲家ほど、この毒薬=「シ」の使い方を心得ていて、曲の魅力を増している人もいます。 即ち 「シ」 は強烈なエネルギーを持っていて、次の 「ド」 に入り込んで行こうとしているのです。日本語では「導音」、英語では 「Leading-toneリーディング・トーン」と言われ、短二度上の 「ド」 (主音)へ、強くリードする音なのです。主音(ド)を中心に考えれば、その短二度下の音が、導音になるわけです。 そして次は 「ド」 の音。これはハ長調の主音(根音・ルート音)ですから、親分肌で堂々としています。一家の大黒柱で、太陽系の惑星で言えば中心となっている太陽で、お芝居で言えば主役です。ですので、音楽を演奏する上で、この主音を意識する事は重要なのです。 さて、「主役」と今述べましたが、「主役」があっての 「相手役」の話に入りましょう。「相手役」は、主役も影響受ける大事な音です。 主役「ド」の「相手役」!それは「ソ」の音です。 同じ大切な音でも「ド」は自分から発する(意識する)存在ですが、「ソ」の音はそれを受ける側です。 野球で言えば、ピッチャーが「ド」で、「ソ」がキャッチャーです。主役は「ド」ですが、次に何を投げるかは、ベテランキャッチャーほど、あらゆる手段でシグナルを発しています。 「ソ」の音の表情・エネルギーの方向で、「ド」の音の進み方も変わる場合があるほどです。 次に 「レ」 と 「ファ」 と 「ラ」 です。 「レ」 と 「ラ」 は似ていますが、温度が異なります。「レ」 は少し冷たく、「ラ」 は明るく 「レ」 より温かいでしょう。「ラ」 は協調性がありますが、「レ」 は 「シ」 ほどではありませんが、少しクセ・個性が強いです。最も変身術を持っている音で、例えば、ハ長調の時はほとんど黒子ですが、ニ長調では誰もが驚くほど明るく快活でフレッシュ感いっぱいに変身します。まあ、ニ長調では「レ」が主音になりますから、それが当然かもしれません。 長調では、二長調は(調号はファとドに♯シャープ)とイ長調(ファとドとソに♯シャープ)は、ギターの音が響きやすく、この調のギターの名曲…例えば、ヴィヴァルディの「ギター協奏曲ニ長調」、ジュリアーニの「ギター協奏曲イ長調 作品30番」など、ギターの為の名曲も多くあります。 「ラ」 の音は、「昔は、私が主役であった」 という風格を持ち、協調性があり、深味のある色を持つ人格者です。 長調の代表がハ長調だとすれば、短調の代表はイ短調(ハ長調の平行調で、どちらも♯も♭もつかない調です)とも言え、その主音は 「ラ」ですから…。小学校の音楽の授業で、先生が長調(明るい)と短調(暗い)の説明をする時に、ド・ミ・ソ(ハ長調のⅠの和音)の和音で長調、ラ・ド・ミ(イ短調のⅠの和音)の和音で短調を表現・説明をしたと思います。 また「ラ」はギタリスト (ギターを演奏する人) にとっては特別な音でもあります。ギターで 「ラ」 の音は⑤弦の開放弦で、チューナー(正しい音程が出るように音を合わせるための道具)が無い時代、ギタリストは、440Hz(ヘルツ)「ラ」の音の音叉(叩くと音が出る)を使い(その音を聞いて)、まず⑤弦を調弦(チューニング)してから、それを基準にして全ての弦を調弦しました。ですからギタリストにとっては、「ド」 以上に馴染みが深い大切な音です。 また演歌(特に古賀政男先生の作品など)が好きな人にとってもAm(エーマイナー=ラ・ド・ミ)やDm(ディーマイナー=レ・ファ・ラ)は、お馴染みのコードでしょう。 「ファ」 の音は、とてもラブリーで、発音通りの 「ふあっ」 とした性格で、いつも 「ミ」 の音に寄り添っています。優柔不断で強い方向性を好みません。使い方に無理がないように、皆さんにお願いしたい位の音です。 ラストは…、先ほど「ラ」はギタリストにとって特別な音と言いましたが、これも重要な音です。それは 「ミ」 の音です。 ギタリストは勿論、ギターオーケストラの作・編曲者、指揮者にも、しっかり知って頂きたい話で、演奏や曲が、聴衆から飽きられてしまうか否かにも関わる話です。 芸術には「芸」(performanceパフォーマンス)と「術」(techniqueテクニック)の両面があります。 「芸」は「演ずる・表現する面」で、「術」は「技術面」の事です。どちらも大切ですが、早熟で天才と称される人の大半は、目の覚めるような高度な技術が注目され賞賛を浴びる場合が多いです。しかし誰もが年を重ねていきます。 例えば、若くて格好よく、速弾きも得意なギタリストは聴衆を魅了するでしょう。しかし、もしもそれがワンパターンならば、聴衆は何歳になってもついてきてくれるでしょうか?自分が年を重ねても、得意な技術に頼り過ぎ、音楽の内容を考えず、聴衆を思わない演奏では、やがて飽きられてしまうでしょう。相手=作曲者・聴衆を思うパフォーマンスが必要なのです。 相手を思いやる音こそ、「ミ」の音なのです。 どうですか?今までどの位、この事に意識がありましたか? ギター(エレキもフォークも全て)の開放弦の音は⑥弦(最低音)から①弦に向かって、ミ,ラ,レ,ソ,シ,ミです。 なんと6本中、⑥弦と①弦の2本が「ミ」の音です。ですから、左手を何も抑えない(全て開放弦)でジャラーンとかき鳴らせば、「ミ」のみがダブルで鳴ります。しかも①弦(一番高い音の弦)と⑥弦(一番低い音の弦)なので、そこから生み出される倍音まで計算すると、とんでもなく「ミ」の音が鳴っているのです。 この様にギターは「ミ」の音が鳴り響いている楽器なのです。 なぜだと思いますか? ギターは6000年以上歴史があり、古代メソポタミアで人類が初めて都市をつくり、神へ豊作の感謝祭を行なった時から、ギターは人の胸に抱かれ、常に「人々の祈りの“声”」と共に大切にされて来たのです。(この詳細は「ギターオーケストラ大教本・上巻」に掲載されています。) “人の声” を邪魔しない、歌やメロディーをサポートする伴奏楽器として歴史を刻んできました。 相手を想う楽器として…、主役「ド」 相手役「ソ」を常に想い、決して壊さない、温かくまとめる「ミ」の音を中心として歩んで来たのです。 「ミ」の音が響く所には、人々が集います。そして音楽は人々の呼吸を合せることからも誕生したのです。「和(調和)」= 「ハーモニー」 がポイントです。 独奏すら “一人でやる合奏” とも言えます。ですから、独奏と合奏を分けて考えたり、独奏だけに固執するのは、勿体ないかも…。 “集って共鳴し合ってこそ” 人らしい幸せの道、理想の道=「夢道」なのです。