【90歳夢道15】全休符が最難関!

 楽譜を見た時、初心者ほど、1小節の中に細かい音符がぎっしりつまっていると“難しそうだ”と思い、休符がたくさんあると“楽かも(やさしい・簡単)”と思いがちです。しかしそれは違います。「オール・スタンディング・オベーション(聴衆総立ちの拍手)」を頂ける夢道を行くにはまず、ここを正さねばなりません。
 実は “音符がぎっしり” は、やさしいのです。そして“休符”は、とても難しいのです。
 なぜならば、音符が多いほど、作曲者の想いはつかみやすいからです。音符は作曲者の意図を伝える“単なる記号”に過ぎませんが、何かを知るヒントにはなります。
 それから、これらの細かい音符を指示通りの速度でミスなく弾けたのなら、その曲が仕上がったと思いがちですが、そうとも限りません。メカニック(技術)面の達成感で満足してしまい、肝心な感動を呼ぶ、その曲の表現はできていない場合もあるからです。日本人にとって本来ドレミファの音楽は西洋=海外の音楽であり、特に古典(クラシック)音楽の解釈では、作曲者の意図を見失ってしまう場合も多くあり、コンクールの審査の時などに、このケースにぶつかってしまった人・グループを多く見受けました。

 では、本題に入りましょう。
 日本語で「休符」と言われると、「休み」と捉えてしまうのですが、音楽的に言えば、「音を出さない時間」と言った方が良いのかも知れません。
 休符は音を出さないから、やさしいのではありません。そこで「音楽の表現」が無くなったわけではないのです。
 音を出さないその空間、その前後も含め、どの様に表現するかを研究し、トレーニングしなければならないので、表現としては多彩で、かなり難しいのです。

 ジョン・ケージにより1952年に作曲された「4分33秒」という曲がありますが、なんと4分33秒間「音を出さない=休符」の曲です。指揮者は始まりと終わりの合図のみしかしませんし、ピアニストならばピアノに向かったまま演奏しないのです。さすがに難解すぎて、この曲に挑戦しようとは思いませんが…(笑)


 さて、「休符」は大きく分けても、何種類もの意味を持ちます。
 まず、一瞬息を止める・エネルギーをためる緊張感のある「休符」。アウフタクト(弱起)や、冒頭に八分休符などが書かれている場合などに多いです。
 それから息を吸うための休符。また音を止める(切る・刻む)ための休符。そして他の音(パート)を邪魔しないための休符もあります。
 おそらく、これらは文章よりも実際に演奏を交えて説明するとわかりやすいです。
 自分の意志で音が伸ばせるバイオリンのような擦弦の奏者よりも、自然に音が衰退してしまう減衰音の楽器=ギターの演奏者などは、休符への意識が低くなりがちなので、いっそう意識して欲しいです。
 指揮者にとっては、休符を意識しない事などあり得ません。
 日本の芸事では「間」を大切にします。音楽の「休符」も、この「間」にあたるものもあります。ですので、音の面・音楽表現でも、休符は非常に重要なのです。

 合奏・アンサンブルなどでは、休符の時の聴衆を意識した身体(アクション)・表情での音楽表現・演出ということにも関わってきます。
 例えば、合奏で今、演奏している楽譜に4小節にわたって全休符(長休符=マルチレスト)があったら皆さんはどうしますか?
 ここで、普段の顔に戻り、お休みモードのリラックスになってしまったら不合格です! 自身の気持ちが、その曲から離れてしまうだけでなく、合奏全体の雰囲気を壊し、コンサートの流れさえも壊しかねないのです。髪の毛をかき上げる動作、演奏に関係のない目線もダメです。ですが時には他の演奏を邪魔しないように意識的に無・存在を消すのはありです。
 音符が書かれていれば、その表現に集中しやすいのですが、休符の場合は、自ら考えて行動しないとならないので、難しいと言えるのです。
 特にギターなどの撥弦楽器(バイオリンなどの擦弦楽器と違い、長く音が伸ばせない)の場合、1小節の中にたくさん音符がある方が理解・表現しやすく、全音符など音が少ない方が表現は難しくなるのです。
 フレーズで考えても、どのようにスタートして、そして中盤はどう表わして、閉じ方はどうするのかが自分で理解できていないと、演奏(音)ばかりか、アクションもどうして良いか分からなくなってしまいます。
 実は、楽譜には書ききれない事はあります。新曲(見本演奏がない)など、作曲者に演奏を聴いてもらいアドバイスをいただく奏者もいます。特に作曲者の個展などでは、それが礼儀です。

 DANROK(新堀ギター男性六重奏団)は、楽譜には書けない瞬時の「間」でも様々な表現をします。そして聴衆総立ちでの拍手が頂けるチームほど、「ここの休符は、どのように身体で表現したら良いか」などの表現の研究が進んで行きます。
 私も音楽監督・指導者として、かつてスクールコンサート(学校の音楽鑑賞授業)を中心に、年間260ステージをこなしていた「東京新堀ギターアンサンブル(NE)」には演奏はもちろんの事、表情・衣装・選曲・プログラミング・演出面でも細部に亘り指導をしていました。当時(1980年代)のNEは、今までギターアンサンブルなど聴いたことが無い(又は音楽鑑賞教室・授業が実現できていなかった)日本全国の小学生~高校生に演奏を届けていたのですから、これは当然でした。そしてこのNEは遂に日本でスクールコンサートの実績№1の記録を打ち立てたのです。
 現在ではDANROKが多々それを受け継ぎ、演奏に加え、アクションや掛け声などの研鑽も日夜進められています。
 DANROKの看板曲「ロック・オブ・モーツァルト」では、一瞬の間に“モーツァルト!”とか“サリエリ~” “コンスタンツェ~”という言葉が入ります。
 “コンスタンツェ”はモーツァルトの妻の名で、“あの世に届け~”の発声で表現し、“サリエリ”はモーツアァルトを毒殺したか否か度々問われている人なので、サ~リ~エ~リ~ウワァァ……と恐ろしい声で表わしています。これを絶叫すると、鋭敏な聴衆の国ほど、終わるや否や爆発音的な拍手が起こります。

 次は、私が世界トップ奏者のステージを拝見した時の話からです。
 ビックバンドの右端で、少し舞台を高くした場所に4人のかっぷくのいい黒人女性達が、左右が触れ合う位に一塊になって、立ってパフォーマンスをしました。譜面台は無し(彼女たちは記号(楽譜)を読んだ事がないそうです)。コーラスを入れる事もありましたが、それが無い時も彼女たちは曲に合わせて、もっそりと揺れたり、腰を軽く上下させたり、肘を軽妙に回したり、指で音を出したり、時には暗闇の中の石と化したり…。それぞれの曲のシーンを非常に鮮やかに表現していて、カーテンコールの時には、群を抜いて聴衆から熱烈な歓声と拍手を頂いていました。演奏をしていたサックスやトロンボーン、ヴォーカルも弦の人達もかすんでしまうほど、この休符だらけのパートを担当した黒人女性達は、見事な表現をやってのけたのです。

 発表会・演奏会で、譜面を見ている皆さん。音楽表現は、譜面を読むことから離れられた時、聴衆を感動させる音楽表現への夢道に入れるのです。
 2007年にヨーロッパでの演奏で、スタンディングオベーションを頂けた新堀ギターグランドオーケストラ(130名編成)は、全曲暗譜であり、この事を真っ先に絶賛して頂けました。
 クラシック音楽の演奏会ほど、譜面台がズラリと並び、奏者の目(顔)が楽譜に行ってしまっていると感じませんか? 確かにクラシック音楽には長い曲も多く、曲数も膨大でオケのリハが少ないこともあるのですが…。もしも、ポップスのヴォーカルが譜面を見ながら歌ったらおかしいですよね?こんなことも、今一つクラシック音楽界の聴衆が増えない原因ではないでしょうか? (ロックフェスなどポップスのライブなどで、聴衆数は万を越えています)

 学生のギターコンクール合奏部門でのこと、課題曲と自由曲の2曲のみの演奏なのに譜面を見ているグループがありました。おそらく演奏者(ギター部員)は楽譜を見なくても演奏できるのではないでしょうか?
 かつてのクラシック界では譜面台を置いておくのが通例で、先ほど述べた1980年代のNEもコンサートで譜面台は並べていました。しかし、そこに置いてあるのは各校の校歌の譜面以外は、爪を磨くヤスリ,カポタスト,ピック,曲順などの場合がほとんどでした。
 ですから、形式(礼儀)として譜面台は置かなくて良いのです。


 次に、「暗譜ができない!」呪縛に陥っている方へアドバイスします。
 “暗譜”のコツは、始めにその音楽のストーリーを感覚的に理解する事です。お手本となるDVDがあればそれを何度も観ます。できれば大型スクリーン&オーディオも使用すれば、本番での臨場感も増しますからいっそう効果的です。そして合奏の練習時に録音して、その録音と一緒に自分のパートを弾きます。そしてできれば、お手本となる映像を観ながら(譜面は無し)、それと一緒に弾いて練習していくのです。
 この方法「夢道」は、練習さえ “楽しくなる秘訣” でもあります。感覚から入るから楽しいのです。楽しいから身体全体での表現が出来てしまうのです。もちろん、身体を使っての表現を意識する事は必要ですが(笑)。
 音楽の勉強は感覚から入るのが近道です。楽譜が読めなくても演奏できる人はいるのです。音と、指の使い方が分かればギターは弾けます。
 専門校の学生やプロの皆さんは、もちろん理論や楽曲分析など必要ですが…。肌で感じる感覚を大切にする事。聴衆を意識する事を決して忘れないでください。
 そして、聴衆が思わず立ち上がってしまう、ハートに響くパフォーマンスを目指しましょう。聴衆も、あなた自身も幸せになれるステージを!