【90歳夢道14】左脳も駆使する音楽芸術

 知性(数学)は左脳、感性(芸術)は右脳と言われてきました。その通りの部分もあります。しかし、前項で述べたように、人間の脳の役割は、単純に右脳・左脳に分ける事はできません。ですが、あえて分けてお話しをします。

 「受験勉強に集中したいので、ギターのレッスンはやめます」 と言ってくる生徒さんは、今もいるのではないでしょうか? 受験勉強は学力試験における偏差値を上げるための勉強で、知識の詰め込みが多く、左脳はフル回転になります。
 ちなみに、学力試験の偏差値の高さと、IQ (Intelligence Quotientインテリジェンス・クオーシェント=知能指数)の高さは、必ずしも一致はしません。ですが多くの人が、学力試験の偏差値の高さ=IQの高さだと思っているのではないでしょうか?
 そして学力試験の偏差値が高いと、ハイレベルな有名校に入学できて、お給料の高い大企業などに採用されやすいと思われてきました。
 このような事から、左脳中心の学習が重視されがちでした。
 前項でも述べましたが、左脳がつかさどるのは話す・書く・計算する・分析するなどで、左脳が優位な人は科学的な思考が得意。右脳がつかさどるのは、ひらめきやイメージ・芸術性・創造性などで、右脳が優位な人は直感的にものごとを受け入れるのが得意。ということで右脳が芸術脳、左脳が数学(理数系)脳だと言われてきました。

 だからと言って、「音楽家は計算が苦手で、科学者には向かない」 とか、「計算が得意で論理的な思考の人は音楽家には向かない」と言うのは間違いです。
 これは過去の偉人を見ても分かります。
 アフリカでの献身的な医療奉仕活動が認められ、1952(昭和27)年にノーベル平和賞を受賞したA.シュヴァイツァーは医師であり、神学者・哲学者、そしてオルガニストでもありました。
 「鍛冶屋のポルカ」の作曲者、ヨーゼフ・シュトラウス(ワルツ王ヨハン・シュトラウスⅡ世の弟)は、元々は工学技士でした。
 オペラ「イーゴリー公」より「ダッタン人の踊り」でも知られるロシアの作曲家、A.P.ボロディンは化学者であり医師でもありました。
 そして相対性理論を証明したA.アインシュタインは母親が音楽家ということも影響したでしょうが、ヴァイオリン,ピアノ,更に晩年にはエレキギターを演奏し、彼は「もし、科学に人生を捧げていなかったら、音楽家になりたかった」と語っていたそうです。
 医師に音楽愛好者が多いという話も聞きます。患者が緊張しそうな検査や局所麻酔での手術では「患者の緊張をほぐすために」と小さくBGMを流している病院もあるそうです。もしかすると執刀する医師もリラックスできるのかも知れません。
 非常に集中力がいる職業(左脳を酷使)の人では、仕事を終えた途端にチェロやクラシックギターに飛びつく人たちがいます。これは脳がそれを求めるのかもしれません。
 車で例えると、アクセルとブレーキの使い方一つで実に様々なコントロールが出来るのと同じで、右脳と左脳は常に必要に応じた使い方で、ハイクオリティな対応が出来るのです。
 左脳と右脳をバランスよく使うのが、脳にも精神にも良いでしょう。

 初めの話に戻りますが、左脳を酷使する受験勉強の時こそ、適度にギターを弾いて右脳も使う事は、左右の脳のバランスをとり、勉強の効率を上げてくれるでしょう。ですから「受験だからギターをやめなければいけない」という事はありません。教室に通うかどうかは、その人次第です。時間が惜しければレッスンに行く回数を減らしたり、オンラインレッスンにしてみるのも良いでしょう。どうするかはその人次第ですが、レッスンを続けて東大に合格した生徒さんも実際にいます。

 次に、私も現役の指揮者ですから、音楽表現をする人・演奏者としてのお話をします。音楽を表現するには左右の脳を使っているという話です。
 私は高校教師として7年間、そして音楽の最高教育機関の一つと言われる国立音楽大学に1964年から25年間勤務していました。その時のことを参考にお話しします。
 音大での勉強の幹・中心はベートーベンでした。それはクラシック音楽の学習で、その土台となるもの基礎を教えやすいという事もあります。
 そして音楽の速さの基準を決めて名曲を残したのがベートーベン(Ludwig van Beethoven 1770年12月生まれ―1827年3月26日没)なのです。
 ベートーベンは日本では「楽聖」とも呼ばれ、その作品は古典派音楽の集大成かつロマン派音楽の先駆であり、多くの音楽家達に影響を与えて来ました。それは、メトロノームの活用,母語での速度表示,ピアノの構造強化と音域の拡張,楽曲の大規模化、騒音の導入(戦争交響曲)等々、数多くあります。
 ここで注目したいのが、「メトロノームの活用」です。 メトロノームが生まれるまでの音楽は、「Tempo ordinarioテンポ・オルディナーリオ(普通のテンポ=脈拍の速さ)」 を基準として、速度記号(Adagioアダージョ=ゆっくり、Allegroアレグロ=速く、等)によって、テンポを調節して演奏されていました。
 しかし脈拍は変化しますし、人によっても違います。これでは、作曲者の理想とする曲の速さ(テンポ)を知る事ができません。この事にベートーベンは不満を持っていました。そんな時、彼の使用していた補聴器(☆メルツェルとその弟の製作)が切っ掛けで、メトロノーム(1816年より発売)の存在を知る事になります。(☆実用的なメトロノームの特許取得者・販売者は機械技師のヨハン・ネポムク・メルツェル)
 そしてベートーベンは1817年12月17日の「ライプツィヒ音楽新聞」で、それまで彼が作曲した8つの交響曲のメトロノームテンポを掲載しました。その後もメトロノームの速度表示を自身の作品に導入し、曲のスピードを楽譜に明示するようになりました。
 しかし、ベートーベンは楽譜出版社へ「もはやテンポ・オルディナーリオの時代は終わりました。これからの音楽は自由なひらめきを尊重すべきなのです」と書き送っています。彼はメトロノームが刻む一定のテンポで演奏されることを望んでいたのではなく、メトロノームによって理想のテンポ感がわかることに有用性を見い出していたのでしょう。これにより作曲者の想いを、それ以前より分かり易く正しく演奏出来るようになったわけです。
 これを成したベートーベンは、メトロノームの形をした墓石の下(ウィーンの中央墓地)で眠っています。

 音楽は時間を基に綴られている芸術なのです。左脳の綿密な計算の上に右脳にゆだねる芸術なのです。またはその逆、右脳で感じ、左脳で分析して音楽表現をする芸術でもあります。

 最近(2024年)新堀ギターでは、新しい女性6重奏団(Graceグレース)を結成しました。平均年齢20代前半の才色兼備なチームです。彼女たちはN校(国際新堀芸術学院)でもそうですが、中学・高校のギター部時代から独奏・重奏・合奏などでの優勝者たちで、学校の成績もトップクラス!進路指導の先生も保護者の方も “まさか、この子が専門学校(国際新堀芸術学院)を選ぶなんて…” でした。もちろん中には公言してN校や新堀ギターオーケストラ等を目指していた人もいましたが…。

 ここで、少し脳の働きについてお話しします。
 知能指数=IQは認知機能や問題解決能力、論理的思考力などを測定する指標です。IQが高い人は、複雑な問題を迅速かつ正確に解決できます。
 そしてIQほどは知られていませんが、EQがあります。EQはEmotional Quotientエモーショナル・クオーシェント=感情指数の略称です。感情の認識や理解、管理、他者との関係性構築など、人間の感情や社交的なスキルを評価するための指標です。EQの高さは、人間関係の構築やコミュニケーション能力の高さを示します。
 他にも人が持つ能力や価値はIQとEQだけでなく、様々な要素によって形成されます。
(例えば、交感神経が優位な日中は論理的に、副交感神経が優位な夜は感情的になるとも言われています。ですから名文を生むには、夜に執筆して朝に見直すと良いそうですが…。)


 どうも新堀ギターオーケストラのメンバーはIQもEQも高い人が多いようなのです。ギタオケをやるからIQもEQも高くなるのか、また高い人がギタオケやりたくなるのかは、わかりませんが…。
 新堀ギターフィルハーモニーオーケストラ(Nオケ)は、2007年にはウィーンやミュヘンの聴衆をスタンディングオベーションにしてしまい、その後もDANROK(Nオケメンバーからなる男性六重奏)等や国際新堀芸術学院の学生オケでさえ、海外公演で多く賞賛を頂いているのです。
 国籍・人種を超えて多くの人が共感し、感動を生む音楽表現をするには、両脳の働きが必要なのです。特にオケの奏者は右脳の感性だけで演奏していない事は確かです。もちろん指揮者もです。


 先ほど述べた「テンポ・オルディナーリオ=普通のテンポ」は「脈拍」とした事でも感じられるように「音楽は人類の共通語」なのです。
 共感は和する事、故に “音楽は平和心を育む” わけです。オーケストラは、それを分かり易くしたものです。
 しかも、新堀式のギターオーケストラでしたら、すぐに参加しやすく、高音・中音・低音…あなたの今の感性にピッタリのポジション・楽器を必ず見つけられます。
 そしてギターは、ボディは太鼓で打楽器にもなりますし、歌の伴奏にも最適です。独奏も重奏も合奏(オケ)もできます。歴史も古く、古代から人と共に歩んで来ました。
 また聴覚(音を聴く)・視覚(楽譜や指揮を見る)・触覚(両手の指先で触れる)を使うので、脳を強く刺激し、脳の活性化・ボケ防止、アンチエイジングにもつながります。
 健康長寿を目指す方々に、音楽すること、楽器…特にギターを演奏すること、更にはギター合奏をすることをお勧めします。
 私自身、2024年4月17日で満90歳になりましたが、薬無し、通院無し、現役の指揮者であり、毎晩シャンパンを楽しんでおります。